第30話 魔王代理任命
「……? 待てよ、あくまで今の目的はメアの仕事をできるだけ減らすこと。それ以外の問題をあれこれといじくり回しても仕方ないのでは……?」
俺は魔王軍の仕事改革を任された訳だが、それはあくまでメアの仕事を減らすため、それ以外の仕事をまとめて改革する必要性はないはずだ。今の俺は他の仕事のことも考えて色々考えていた訳だが、それはその仕事の担当がやるべき仕事であって俺の仕事ではない。俺は目指すべきゴールの設定を間違えていた訳だ。
「……!」
そう思った瞬間、俺はペンを取り、紙にひたすら思いついたアイディアを書き出して、組み合わせた。今まで、読んできた本の内容、勉強した内容が次々に繋がっていく。行き詰まり、もうどうしようもないはずだった問題がどんどん解決されていく。
「……できた」
数時間後、一つの資料が完成した。まだいくつか問題は残っているかもしれない。だが、それは俺が解決すべき問題ではないし、できることは全てこの資料の中に詰め込んだ。それは間違いない事実だった。
その後、俺は部屋を飛び出してメアの資料を見せに行った。
「……」
メアはしていた仕事を止め、俺の作成した資料に目を通した後でこう言った。
「これなら問題ありません。合格です! 真裕、よく頑張りましたね」
「ほ、ほんとに⁉ っしゃー!」
そうして俺は勢いよく拳を天に掲げた。ほんとにここまで頑張って良かった、そう心から思えたのはとても久しぶりな感覚だった。
「後は任せてください、ここからは私の仕事ですから」
それから数日間、俺はネムとともに資料の整理に明け暮れていたのだが、その資料は日を追うにつれて段々と減っていった。
「いや~、だいぶ減ったね~」
「そうだね。今までの量が嘘みたいだよ」
ネムとそんなことを話していると、扉がノックされ、メアが部屋の中に入ってきた。
「あ、メア。どうかしたの?」
「……どうやら予定通り書類はだいぶ減ったようですね」
部屋の様子を見ながらそう言ってくるメアに俺はこう返答した。
「おかげさまでね」
「いえ、ここまでの改革をできたのは真裕のおかげです。もっと胸を張ってもいいんですよ?」
まあ確かに改革案を作ったのは俺だが、それはメアの助けなしではなし得なかったことだ。俺一人の力でやりましたとは言えるはずもない。
「それで~、魔王様は何しに来たの~?」
「あ、そうでした。これから二人には魔王代理として仕事をしてもらいます」
メアの負担を軽減するために魔王代理を作ることは俺の改革案の一つだ。しかし、ネムは分かるが、俺まで魔王代理にしてしまっていいのだろうか……。
「え、俺も……?」
「もちろんです。あれだけの改革案を作れて信頼の置ける人は他にはいませんから」
「そ~だよ~。真裕はもっと自分に自信を持った方がいいよ~?」
……少しの不安は残るが、確かに魔王代理がネムだけだとまた二人の仕事量が増えてしまうし、メアがそこまで言ってくれるのならばやるしかないだろう。
「……分かった。俺もやるよ、魔王代理」
俺がそう言うとメアは満足そうに頷いて俺たちに勲章のようなものを差し出してきた。
「では、二人にはこれを渡しておきますね。魔王代理の証です。これからもよろしくお願いしますね」
そう言って俺は少し前なら想像もできなかった魔王代理の地位を得たのだった。
それから数日後、無事にメアの仕事量も減り、改革案がうまく行ったことに安心しながら俺は仕事に明け暮れていた。今日行うのは改革に伴って書類を移動させる業務だ。
といってもネムの収納魔法でしまっていくだけだから結構簡単なんだけど。そうしてネムに書類を渡していく中で俺は気になる資料を見つけた。
「……? 解呪のための研究資料……?」
ちらりと中を見てみると、呪いに関する研究がぎっしり書き込まれていた。
呪いの解き方……? なんでこんな資料がこんな所にあるんだ? しかも、中に書かれている字はメアの書く字によく似ていた。メア本人が書いたものなのだろうか。
「真裕~、早く次持ってきて~。後、ここにあるの機密資料ばっかりだからあんまり見ないようにね~」
「え、そうだったの? ごめんごめん、すぐに持っていく」
メアの手によって書かれた呪いに関する機密資料……気になるが、世の中知らない方がいいこともあるって言うし、見なかったことにしよう。
そうして書類を収納していく中で、俺は一つの縦長な用具入れ? を見つけた。その用具入れはとても頑丈そうな素材でできており、中に何かないか確認するために開いたが、特に何も入っていなかった。
「……ネム、これってなんなの? 用具入れ? にしては何も入ってないけど……」
俺が不思議に思ってそう尋ねるとネムは書類を収納しながらこう答えてくれた。
「あ、それ~? ま~、用具入れみたいなものかな~。昔は使ってたみたいだよ~? 頑丈だから大切なものを入れてたみたい」
「そうなんだ」
そうして用具入れに軽く触れてみると、少しぐらついているような気がした。
……これ、倒れて来ないかな。こんな重そうなものが倒れてきたら危なそうだけど。
俺がそんなことを考えながらネムの方へ書類を持っていこうとした時、足元にあった何枚かの書類に足を滑らせ、前方向へ倒れてしまった。倒れる瞬間に、両手を前に出したことによって頭をぶつけることはなかったのだが……。
「あ、その、ごめん」
「ひゅ~、真裕、大胆だね~」
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