第42話 ネッ友は魔王様!

「あなたは誰ですか……?」


 振り返って見てみると、そこには少し幼く見えるメアが立っていた。


 もしかしてメルトルカの言う幼き頃の魔王ってこの子のことか……?


 そう思った俺はメアに対してこう言って自己紹介をした。


「……俺は真裕って言うんだ。君は?」


「私はメアリア・シャルティール。魔王をやっています」


 そう言って答えてくれたメアだったが、その声はどこか冷たいものだった。


「それじゃあ、メアって呼んでもいいかな?」


「魔王の私を愛称で呼ぶつもりですか?」


 冷たくそう言って来るメアだったが、そこには威圧的なものは含まれていなかった。むしろそこに含まれていたのは驚きといった方がしっくりくるだろう。


「駄目かな?」


「……いえ、構いません。魔王の私を恐れない人間を見たのは初めてでしたから。少し驚いただけです」


 メアはそう言うと大きなベッドに座り込んで自分の横を優しく叩いた。


「こちらにどうぞ。真裕、あなたとは少し話がしたくなりました」


 その言葉通り隣に座るとメアはこう尋ねてきた。


「真裕はここになんの用があって来たのですか?」


「俺? 俺はメアに会いに来たんだよ?」


 俺がそう答えるとメアは心底驚いたようにこう言ってきた。


「私に会いに……? 人間のあなたが魔王の私にですか?」


「魔王とか人間とか関係ないよ。俺はメアと友達になりに来たんだ」


 この世界のメアと少し会話して分かったことがある。それはメアが自分を孤独な存在だと思っていること。自分は魔王という存在であるがゆえに誰にも受け入れてもらえないと思っていること。そんなこと、その寂しそうな目を見れば一瞬で分かることだった。


「私と友達に……? 魔王の私と人間のあなたが友達になれるとでも?」


「言ったでしょ? 魔王とか人間とか関係ないって。なれるよ、絶対」


 俺が微笑みながらそう言うとメアは頭を抱えながらこう呟いた。


「わ、私は魔王で……孤独で……誰にも認められない存在で……‼」


 俺はそんなメアを抱き寄せてこう言った。


「だったら俺が認めるよ。一人がつらいなら一緒にいるから」


「……あ、あなたに私の何が分かるんですか。私のこと何も知らないくせに……!」


 涙を流しながらそう言ってくるメアに俺は優しい声でこう言った。


「……確かにメアのこと、全部は分からないかもしれない。でも知ってるよ。無邪気に喜ぶ姿、威厳のあるカッコいい姿、心を癒やしてくれる優しい姿。いろんなメアを知ってる。そしてこれからも知っていきたいと思ってる」


 俺はそう言って一回深呼吸をすると意を決してこう口にした。


「……俺はメアのことが好きだから」


 ずっと自分に嘘をついていた。メアはあくまで友達。それ以上の関係になることなんて許されない。でも、そんなのは無理だった。あんなに魅力的な面をたくさん見せられて、恋に落ちない方がどうかしている。俺はメアのことが間違いなく好きだったのだ。


「……真裕、私はもう既に満たされていたんですね。真裕、私もあなたのことが……」


 メアがそこまで言いかけたところで俺は現実世界に引き戻された。


「……! メアは⁉」


 俺が飛び起きてそう言うと、ネムが驚いたようにこう言った。


「び、びっくりした~。魔王様なら無事だよ~、真裕のおかげでね~」


 どうやらネムの言葉を聞く限り、無事に解呪は成功したようだ。


 しかし、辺りを見回してもそこにメアの姿はなかった。そんな俺を見て近くにいた香恋がこう言ってきた。


「メアならそこら辺のバルコニーにいるよー。そういえば真裕が目を覚ましたら話があるって言ってたね……」


「ありがとう。ちょっとメアの所に行ってくるよ」


 そうして部屋から廊下に出ると、きれいな夕焼けが魔王城の中を照らしていた。少し歩くと外が一望できるバルコニーにメアの姿があった。


「メア!」


 俺がそう呼びかけるとメアは振り返ってこう言ってきた。


「真裕……」


 そう言ってこちらの方を見るメアの表情はどこか曇っていた。俺はそんなメアを不思議に思いながらもバルコニーの中に入ってこう言った。


「体の調子は大丈夫そう? まだどこか不調だったりしない?」


 俺がそう尋ねるとメアは少し黙った後でこんなことを言ってきた。


「真裕、私たちは本当に関わるべきだったのでしょうか」


「……? どうしたの急に、俺たちは魔王とかそんなの関係なく友達でしょ?」


 そう、それは他ならないメアが俺に教えてくれたことだ。魔王とか勇者とかそんなものは関係ない。俺たちはただ、友達なんだ。


「……私は魔王なんです。ずっと孤独だった、でも寂しいとは思っていませんでした。ですが、真裕と出会ってから知ってしまったんです。この胸が締め付けられるような痛みが寂しいってことだって」


「だったら一緒にいよう? もうメアを孤独になんてさせないから」


 俺がそうやって手を差し伸べるがメアはそれを拒絶する。


「……真裕。私は怖いんです。真裕を失うことが、傷つけてしまうことが。でも、私の側にいたら真裕は傷ついてしまうそれならいっそ関わらない方が……」


「メア!」


 俺は話をそう言って話を遮った。


「……俺さ、メアのことが好きなんだ」


「真裕⁉︎ な、何を……?」


 俺はメアの言葉を無視して更に言葉を紡いでいく。


「かわいくて、クールで、優しくて、おっちょこちょいで、不器用で。そんなメアが心の底から好きなんだ……だからこれからもメアと一緒にいたい。同じ景色を見て、同じように笑いたいんだ‼︎」


 俺がそう言い終えると、メアは涙を流しながら俺に勢いよく抱きついてきた。


「私もです……! 私も真裕と一緒にいたいです! 私も真裕が……」


 そう言った瞬間、メアが俺に口づけをしてきた。その口づけは深く、俺たちを照らす夕日よりもずっと熱かった。


「私も真裕が大好きです‼︎」



 そうして俺たちが友達以上の関係になってから数日が経った。俺は相変わらず魔王城で業務に励んでいた。


「真裕〜、そろそろ休憩にしようよ〜」


 俺はぐでーっとしながらそう言ってくるネムに背伸びをしながらこう言った。


「……んー! そうだね。そろそろ休憩にしようか」


 そうして廊下に出ると香恋にバッタリ出くわした。


「やっほー! 二人は今から休憩?」


「うん。メアと一緒に休憩しようかなって」


 俺がそう言うと香恋は笑いながらこう言ってきた。


「だよねー、真裕が休憩させないと、メアなかなか休憩しないもんねー」


 そうして俺たちは三人でメアの仕事部屋に向かっていった。


「メア、そろそろ休憩に……」


「ま、真裕、少し手伝ってください。これが終わったら休憩にしますから……!」


 そう言ったメアの机には大量の書類が積まれていた。


「そ、それじゃあボクは先に休憩しとくね〜……」


 そう言いながら部屋を出て行こうとするネムを香恋が捕まえてこう言った。


「それじゃあみんなで手伝おっかー!」


「え〜、やだ〜!」


 そんな二人を見ながら俺はメアの隣に椅子を用意しながらこう言った。


「さ、メアどの仕事からやったらいい?」


「真裕はこの仕事からお願いします」


 そう言うとメアは書類に視線を戻し、筆を走らせる。俺はそんなメアの横顔を眺めていた。


「……? 真裕? どうかしましたか?」


「いや、今日もかわいいなって思って」


 俺がそう言うとメアは顔を赤くしながらこう言った。


「ま、真裕も、カッコいいですよ……」


 俺は何者かになろうとしていた。でも、何者かになんてならなくてよかったんだ。俺はメアと、みんなと一緒に笑えたらそれでいいんだ。


 俺はそんな心地の良い感覚とともに、今日も魔王城でみんなと一緒に仕事に励むのだった。

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ネッ友は魔王様!? ~オフ会相手がメンタル弱めの地雷系魔王様だったんですが~ 朧ユ鬼。 @yukiyuki969

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