第41話 幼き魔王

「来い、メルトルカ! 俺に力をくれ‼」


「「「⁉」」」


 俺がそう言った瞬間、俺の中からメルトルカが飛び出してきた。


「ふふ、君ならそう言うと思ったよ。契約に従い、君に力をあげようじゃないか‼」


 メルトルカがそう言うと俺の中に魔力が流れ込んできた。それは今まで感じた魔力とは違い、殺意に満ち溢れていた。


 ……これが力か。これならば行けそうな気がする。


「真裕、今のは一体……?」


 俺は一つ深呼吸するとメアに向けてこう言った。


「メア、少し待っててね。すぐ終わるから」


 そう言った次の瞬間、俺はファルケイルを殴り飛ばし、壁に激突させた。そのままの勢いでガルゲインも蹴り飛ばしファルケイルと同じ道筋をたどる。


 俺は近くに落下したベルを拾い上げると握り潰した。


「これは予想外でしたね……まさか、体に悪魔を飼っていたとは」


 血を流しながらそう言ったファルケイルに俺は一瞬で近づいて追撃を加える。俺の速度はファルケイルの反応速度を上回り、胴体に風穴を開けながら魔王城の外へとふっ飛ばした。


「おのれ、人間ふぜいが……!」


 ガルゲイルはそう言いながらドラゴンへと変身して外へ飛んでいった。俺は魔力を使用し、飛翔するとガルゲイルを追いかけた。


「こうなれば、魔王城もろとも吹き飛ばしてくれる‼」


「落ちてろよ、元龍王」


 そう言ってガルゲイルが口から何かを放とうとした瞬間、俺は頭を蹴り飛ばし、そのまま殴って地面に叩き落した。


 俺が魔王城の中へ戻ると、そこでふわっと、俺の中から殺意の魔力が抜けていった。そのまま、倒れそうになった俺をメアが受け止めてくれた。


「良かった。初めてメアのこと守ってあげれたよ。いつも守ってもらってばかりじゃカッコ悪いもんね」


 薄れかけの意識でそう言った俺にメアは優しくこう言ってきた。


「……そんなことありません。真裕はいつもカッコいいですよ」


 メアはそう言うと俺に深い口づけをしてきた。そしてそれと同時に先程の魔力とは違う優しい魔力が中に流れ込んで俺の体を満たした。俺はその心地よい感覚に身を任せ、意識を手放した。


 どのくらいの時が経ったのだろうか。俺は静かに目を覚ました。


「……! 真裕! 大丈夫……? 体、どこか痛かったりしない?」


 心配そうにそう問いかけてくる香恋に俺はこう答えた。


「うん、大丈夫そう……っていうか今どういう状況?」


 そう言いながら横を見てみるとそこにはメアが眠っていた。


「私も何が起きたかよく分かってないんだけど……多分、真裕が悪魔と契約してあの二人を倒してくれたんだよね?」


「うん、そこまでは覚えてる。その後、メアが体に魔力? みたいなのを流し込んでくれて……」


 俺が状況を思い出しながらそう言うと、香恋が納得したようにこう言った。


「……なるほど。メアが真裕に流し込んだのは魔力じゃなくて生命力だね。生命力を直接流し込まないといけないくらい真裕の体は限界だったんだ……」


 そうして話していると、ネムが部屋に入ってきた。


「香恋~、お父様たちの拘束終わったよ~。壁も直したし後は……って真裕! 目を覚ましたんだね」


 言われてみればファルケイルたちによって破壊された壁が、応急処置的ではあるが、直っていた。


「うん、おかげさまでね。でも、メアはあんな状態で俺に生命力なんて流して大丈夫なの……?」


 俺がそう尋ねると二人は暗い顔をしてこう言った。


「それなんだけど……魔王様、今すごい衰弱してるんだよね~……」


「今は私たちがなんとか維持してるんだけど、このままだと時間の問題かも……」


「そ、そんな……何か解決策はないの⁉」


 結局、俺はメアを守ることはできていなかったという訳だ。むしろ守られたと言ってもいい。そんなメアをただ見殺しにはできない。


「……もう一度精神世界に行けばなんとかなるかもしれない。でも、前行った場所よりももっと深い所に行かないと、きっとメアは救えない」


「そこまで深い場所まで行くと、ボクたちも維持が精一杯で手助けができなくなるけど……真裕はそれでも魔王様を助けに行くんだよね?」


 そう尋ねてくるネムに俺は迷わずこう答えた。


「もちろん。このままメアを助けられないなんて絶対に嫌だからね」


「……分かった。精神世界に飛ばすからメアの手を握ってあげて」


 俺はベッドに横になりながらメアの手をしっかりと握った。目をつむると次第に意識が薄れていった。目を覚ますと以前来たことのある、メアの部屋のような場所がそこには広がっていた。


「……どうやらメアの精神世界に来れたみたいだ。でも、俺はここで何をすればいいんだ?」


 そこで俺はメルトルカが言っていた言葉を思い出した。


『一つだけヒントをあげるとしたら、幼き頃の魔王を救うことだね』


「幼き頃のメアを救う……」


 考えても考えてもその意味は分からなかった。その時、ポケットから何かの力を感じた。そこに入っていたのはメアから渡されたペンダントだった。


 ペンダントは淡く光り、俺に何かを伝えようとしているように見えた。


「少しこの部屋を探索してみるか……」


 そうしてペンダントを持って部屋の中を歩いていると特定の方向に進んだ際にペンダントの光が強くなった。


「……? この光が強くなった方に何かあるのか……?」


 そうしてペンダントの光を頼りに探索していると一つのアイテムの前にたどり着いた。それは俺が以前メアにあげたエンジェルスライムのフィギュアだった。


 エンジェルスライムの前に立つと、ペンダントの光は更に強くなっていた。


「……ここに何かあるのか……?」


 俺がそう思ってエンジェルスライムに触れてみると、後ろから少女の声がした。


「あなたは誰ですか……?」

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