第40話 反乱

「ファルケイル教団。魔王軍に反乱か……?」


 ファルケイル教団って前、謁見に来てた反魔王軍の人たちのことだよな……?


「そう! 反魔王軍のファルケイル教団。最近、その勢力を拡大していたんだけど、遂に実力行使に出てきたみたい。今、ネムに外を見てもらいに行ってるんだけど……」


「……このままでは不安が拡大して大きな問題になってしまいますね。今すぐ対抗策を講じたいところですが……」


 ニュースになるくらいだから本当に大規模になっているはずだ。今まで何も思っていなかったような人も不安にかられて賛同しだす可能性がある。確かに一刻も早く対抗策を講じるべきだ。


 そう考えていると次はネムが部屋に入ってきた。


「外、見てきたよ~。ほんとに大規模になってるみたい。各地で色々問題も起こってるし、ちょっとまずいかもね」


 どうしたら鎮圧できるんだ? 武力で解決する方法は論外だし、かといって即効性のある手段がある訳でも……いや、待てよ。ニュースのように情報拡散をする方法があれば逆に魔王派の人間を動かせるのでは……?


「……みんな、確かドラシルYのフォロワー多かったよね」


「うん。この間の写真をあげてからもっとフォロワー増えたし……でもなんで?」


 そう尋ねてきた香恋に俺はこう説明する。


「もしかしたらSNSを使って魔王軍派の人たちの協力を煽れないかなと思って」


「なるほど。確かにSNSの情報拡散能力を使えば可能かもしれません」


 そうして三人はドラシルYを使って魔王軍派の人たちに協力するように呼びかけた。


 数時間後、反魔王軍派によるデモは凄まじい勢いで沈静化していった。むしろ、反魔王軍派の起こした過激な行為によってバッシングを受けていた。


 俺たちはそれを加速させるためにライブ配信でメアの言葉を伝えることにした。いつもの姿に着替えたメアがライブ配信をしようとしたその時だった。


 凄まじい音とともに魔王城の壁を突き破って二人の男が部屋の中に入ってきた。


「……? あなたたちは……!」


 そうして入ってきた二人は見覚えのある二人だった。一人はネムの父親、元龍王のガルゲイン。そしてメアに謁見をしていたファルケイル教団のトップ、ファルケイルだった。


「お久しぶりですね魔王様。さすがですね、我々教団の作戦をこうも簡単に潰してくれるとは」


「作戦って……魔王の座でも奪う気だったの?」


 香恋のその言葉にファルケイルは首を横に振ってこう答える。


「だった? いえ、今も奪う気ですとも」


 そう言ってニヤリとするファルケイルを無視してネムがこう言った。


「……お父様。まさかとは思うけどそいつに力を貸してるの?」


「当たり前だ! 貴様らのせいで我は龍族の里に入ることもできん! であれば、魔王の座を奪い取り、この世界の新たな王となるしかあるまい」


 なるほど、大衆を操作して魔王の座を奪おうとしたのか。だが、それが失敗に終わり、武力で奪いに来たという訳だ。


「……なるほど。要件は分かりました。ですが、いくら私が本調子でないといえど、私たちに勝てるとでも?」


「ふふ、そこは抜かりありませんよ」


 そう言うとファルケイルは一つのベルを取り出して、音を鳴らした。


「……? なんだ?」


 俺はその音を聞いても何も感じなかったのだが、みんなはそうではなかった。みんな耳を押さえて不快そうな表情を浮かべていた。


「ふふ、人間の君には分からないだろうね。このベルは強制的に魔力による身体制限をかけるアイテムなのだよ」


 魔力による身体制限……そういえば前にネムが言っていた気がするな。魔力を使えば身体能力を自在にコントロールできるって。それを強制的に行って弱体化させるのか。


 ファルケイルがベルを鳴らし終えると、メアたち三人はふらつきながらもなんとか体制を保っていた。


「どうだい? 自分が弱い存在になった感想は!」


「……ほんとに弱くなってるみたいだね~、魔法も使えないし……」


 ネムは自分の体の様子を確認しながらそう言った。


「これで形勢逆転という訳か。だが、いくら身体制限がかかっているとはいえ、貴様らはそう簡単に死なないだろうな……だが、そこの人間は違う」


 ガルゲインがそう言った次の瞬間、何故かネムと香恋が吹き飛ばされ、激しく壁に打ち付けられていた。


「な、何が……?」


「まさか反応するとは思いませんでした。身をていして守るほどにその人間が大切だと見えますね」


 その言葉で俺は現状を理解する。俺に対しての攻撃を二人が守ってくれたのだ。


 俺が何もできずに硬直していると、目の前にメアが立ちはだかった。


「真裕は絶対にやらせません」


「魔王よ。そんな体で何ができる! そんな人間一人守って何になるというのだ?」


 そう言ってくるガルゲインにメアは力強くこう言った。


「約束、しましたから。真裕のことは命を替えても守ると」


 ……そのこと覚えてたんだ。俺は冗談のつもりで言ったんだけどな……。


 なぜ、俺には力がないのだろうか。メアを守るだけの力が、戦うための力が……!


『その力、私が与えてあげようか?』


「!」


 頭の中に響いてきたのはメルトルカの声だった。


『ただし、君の体にも大きな負荷がかかる。死ぬ危険性もあるだろう。それでもいいのなら私の名前を呼びたまえ、とびきりの力をあげよう』


 その提案に迷う必要性なんてものはなかった。俺は即座にその悪魔の名前を呼んだ。


「来い、メルトルカ! 俺に力をくれ‼」


「「「⁉」」」

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