第27話 威厳もあるよ、魔王様
ネムにやり方を教えてもらいながら俺は書類を整理していった。似たような書類を分類したり、明らかにいらない書類を処分したりと、基本はどのような書類なのかを認識して取捨選択していく仕事だった。
最初は魔王城での仕事と聞いてどうなることかと思ったが案外やっていけそうだ。
しばらく書類を整理していると部屋のドアがノックされ、中に一人の人物が入ってきた。
「失礼しまーす……って真裕とネムじゃん。やっほー」
そう言って入ってきたのは香恋だった。
「香恋……? どうかしたの?」
「いやー、新しい書類を持ってきたんだよねー。ここに置いとくね」
そう言って香恋は亜空間からいくつもの書類の山を取り出してそこらのテーブルに置いた。
「え〜、また仕事が増えた〜」
そう不満を漏らすネムに、香恋がこう言った。
「そんなこと言われても仕方ないじゃん、私も仕事だしー」
「……香恋はどんな仕事してるの?」
メアとネムは魔王城で働いているが、香恋はどこでどんな仕事をしているのだろうか。
「私? 私は魔王軍と、この世界で暮らす人間の仲介をしてるの。メア、つまり魔王への要望とかそんなものを集めて持ってきてるんだー」
魔王軍と人間の仲介……確かにそれは勇者である香恋が適任かもしれない。ってかそんな仕事あったんだ。
「にしても相変わらずすごい量だねー。もうちょっと減らしたりできないのかなー」
確かに書類が山のようにあってどれだけやっても終わりが見えない。しかも香恋が持ってきたように書類は今後増えていくはずだ。どうにかして書類を判別する仕組みを作らないといけないな。
「ほんとだよ~、最終的にはこの書類の山は魔王様が一人で片付ける訳だし~、魔王様のためにもボクたちのためにも、なんとかしないとね~」
「え? これ、全部メアが片付けるの?」
今、俺たちがしているのはあくまで分類。書類にサインなどをするのはメアの仕事ということなのだろう。中にはサインをするべきか否かを判断しないといけないものもあるだろう。それをすべて片付けるとなると、その大変さは俺たちの比ではない。
「そ~だよ~、だから魔王様、最近まで休みもろくに取ってくれなかったんだよね~。真裕と遊ぶようになってから少しずつ休みを取ってくれるようになったけど」
「そうなんだ……だったらなおさら、仕事を減らさないといけないね。ちょっと考えてみるよ」
この仕事量は明らかに異常だ。この生活を続けていたら肉体的にも精神的にも疲れ切ってしまう。その前に手を打たないといけない。
その後、香恋も書類の整理を手伝ってくれたのだが、それでも書類の山は全然片付かなかった。
「あ~、もう無理~。ボク、もう限界~」
「そーだね。少し休憩した方がいいかもねー」
ぶっ続けで何時間も書類の整理をしていたからか、肩や首に少しの痛みを感じる。俺が立ち上がって体を伸ばしていると、香恋がこんなことを言ってきた。
「あ、そーだ。折角だしメアの仕事風景、見てみない? 真裕、メアの魔王モード見たことないでしょ」
「魔王様、真裕の前だとすごい優しいもんね~」
そういえば前にメアは普段、もっとツンツンしてるって言ってたような気がするな。確かに魔王モードのメア、見てみたいかも……。
「……確かに気になるけど、仕事の邪魔にならないかな?」
「たぶん大丈夫だよ~。今、誰かの謁見中だろうし、眺める分には問題ないと思うよ~」
それを聞いて俺はこう聞き返した。
「謁見?」
「書類じゃなくて直接意見を言いに来る人もいるからねー。そういう人の相手をするのもメアの仕事な訳」
なるほど。魔王って本当に忙しいんだな……仕事ってまだたくさんあるんだろうし。
「それじゃ〜、バレないようにこっそり行こ〜!」
そう言って俺たちはバレないようにメアの仕事風景を覗きに行った。とても大きな部屋に入るとそこでは一人の男がメアに謁見をしていた。
「……という訳で、我々ファルケイル教団拡大のためにもこの提案、了承頂けないでしょうか」
「ファルケイル教団……?」
俺がそう疑問に思っているとネムが俺にこう耳打ちしてくれた。
「ファルケイル教団は〜、前話した反魔王軍の人たちのことだよ〜」
「え⁉︎ 反魔王軍の人が謁見に来てるの⁉︎」
反魔王軍っていうくらいだから、こっそり勢力を拡大してたりするのかなとか思ってたけど、こんなに堂々と謁見に来るものなんだ。まあ、確かに堂々としていた方が逆に厄介なのかもしれない。
俺がそんなことを思っていると、メアが男に向かってこう口を開いた。
「却下です」
メアの声は普段からは考えられないほど威厳に満ちた冷たい声だった。
「な、なぜです⁉︎ これは魔王軍にとっても利があることのはず!」
「……あなたの言っていることは結局教団を拡大したいという私利私欲ではないですか。確かにあなたがいうように教団の教えによって救われる人がいるかもしれません。ですがそれ以上に、得をするのはあなたという個です」
メアのその意見に対して男は激しく反論する。
「た、確かに結果的には私という個が得することにはなるかもしれませんが、それ以上に、救われる人がいるということ自体が価値のあることではないでしょうか」
「……救われる人がいることはいいことです。しかし、あなたからは透けて見えるんですよ……欲が」
「な、何を根拠にそんなことを!」
大きな声でそう言う男に対してメアは冷静にこう返答した。
「聞くところによると、あなたたちファルケイル教団は私たち魔王軍に対して反抗的な活動を行なっているそうですね」
「不満があれば、抗議活動をするのは当然のことです。魔王様はそれすらも許さないと?」
さも当然と言ったふうの男にメアは怒ることもなく、こう言った。
「いえ、抗議活動は構いません。世の不満を聞くのも魔王の勤めですから」
メアはそう言って一拍置いてから再び口を開いた。
「ですが、あなたたちファルケイル教団は度々問題行動を起こしています。他者を強引に巻き込んだ迷惑な行動を、です。そこにはファルケイル教団のトップであるファルケイル、あなたも絡んでいるはずです。そこが問題なのです」
「……確かに目が行き届いていない私にも責任があるかもしれませんが、私が絡んでいるという証拠はどこにもないはずです」
「……ともかく、提案は飲めません。お帰りください」
メアがそう言うと男は何か言いたげだったが、これ以上は無駄だと判断したのか、この部屋から退室した。
男が退室してから少しして、メアがこちらの存在に気がついた。
「みなさん⁉ いつからそこへ⁉」
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