第23話 ギャル勇者の地雷
「さ、まだ夜まで時間あるし一緒に話でもしよう?」
俺はそれに従い香恋の隣に座った。視線の先にはメラメラと燃える焚き火があり、この空間を暖かく照らしていた。
……とは言ったものの何を話せばいいんだ? 俺から振れるようなネタなんてないぞ……?
そう思いながらも俺はなんとか絞り出した話題を振ってみる。
「……そういえば香恋はこっちの世界で冒険とかしたことあるの?」
以前メアから、香恋は二つの世界が繋がる前に異世界へ転移した存在だということを聞いたことがあった。ということは異世界で冒険とかをしていた可能性だって十分あり得る話だ。
「うん、あるよー。こっちの世界でできた友達と一緒にねー」
どこか遠くを見ているような香恋に俺は続けてこう尋ねた。
「そうなんだ。その友達とは今も交流があるの?」
「……ないよ。その友達、私のせいで死んじゃったんだ……」
「……! ご、ごめん。俺……」
……完全にやらかした。間違いなく踏んではいけない香恋の地雷を踏んでしまった。
「謝らないで、真裕は何も悪くないから。悪いのは私なんだよ……」
「……」
そう言って悲しげ表情の香恋に俺は何も言うことができなかった。
「……真裕。私、怖かったんだ。もしも真裕も死んじゃったらどうしよう、って……」
今にも泣きそうな顔でこちらを見る香恋を安心させるためにこう言った。
「俺はそう簡単には死なないよ。ま、根拠はないけどね」
そう、根拠などない。今日だって香恋が来てくれなかったら死んでいた。もっといえば、みんなが障壁を張ってくれていなかったら死んでいたのだから。
だが、それでも俺は死なない。香恋にこんな悲しそうな顔をさせないために。そこに根拠なんてものは必要ない。
「……ふふっ、そうかも。真裕はそう簡単に死ななそう。もし死んじゃったりしたらメアとか世界滅ぼしちゃいそうだし」
「……それはほんとに死ぬに死ねないな」
その言葉は冗談だと思うが、なんとしてもこのダンジョンからは生きて帰らないとな。
そうして少し静寂の時間が訪れた後、俺は話を変えるようにこう言った。
「あ、そういえばこれ拾ったんだけど何か分かる?」
そう言って俺はダンジョンで拾った綺麗なビー玉のようなものを取り出した。
「……! もしかして拾ったの?」
「うん、綺麗だったから……もしかして拾っちゃまずかった……?」
確かに今思えば、ダンジョンのよく分からないものを拾ってしまうのはよくないかもしれない。
「ううん、それレアアイテムが封印されてるものだから、ちょっとびっくりしただけ。ねえ、さっそく開けてみようよ!」
そう言って香恋が俺の持つビー玉のようなものに触れると、中から銀色の指輪が出現した。
「……指輪? こういうアイテムは触れると使い方が分かるんだけど……どう……?」
香恋の言葉の通り、この指輪が手に触れた瞬間、この指輪の情報が頭の中に流れ込んできた。まるで初めからそのことを知っていたかのように。
「スイッチリングっていうらしい。自分と対象を入れ替えるアイテムだって」
「へえー、珍しいアイテムだね。使い方によっては強そうかも……あ、そのアイテムは真裕が持ってて」
「え? 俺より香恋が持ってた方が良くない?」
俺がこんなアイテムを持っていてもしょうがないと思うのだが……別に戦闘とかしないし。
香恋はアイテムを渡そうとする俺を拒否してこう言った。
「いいから持ってて。ダンジョンで見つけたものは発見者のものだからね」
そう言われて俺は渋々引き下がることにした。
「……まあ、記念に持っておくか」
異世界のレアアイテムなのだから記念としては十分だろう。
その後俺たちは、話をしたり、ご飯を食べたりして張っていたテントで寝た……のだが。なんで距離がこんなに近いんだ!
そう、狭いテントの中に二人で寝ることになったのだ。まあ、テントを一つしか持っていなかったのだから仕方がないのだが……今日はネムもいないし、この状況でどうやって寝ればいいのだろうか。
俺がなんとか心を無にしていると次第に意識がぼんやりとしてきた。そんな時、香恋がこんなことを尋ねてきた。
「……真裕、まだ起きてる……?」
俺は夢うつつ状態だったため、香恋の言葉に答えることはなかったのだが、少しして頬に柔らかい感触を感じた気がした。
「おやすみ、真裕」
その言葉を最後に俺は完全に夢の中へ落ちていった。
翌日。俺たちは朝食を食べてからダンジョンを進むことになった。
「あ、そーだ。忘れないうちに障壁、かけ直しとくね」
香恋がそう言うと俺の周りに半透明の黄色い障壁が展開された。どうやらメアの張ってくれた障壁とは色が違うようだ。属性の違いだったりするのだろうか。
「ありがとう。障壁を張ってもらうとなんか安心するよ」
「……今日は魔力温存しないといけないから、そこまで強い障壁は張れないのは許してね」
そっか、下層の魔物は強いんだよな。さすがに俺を庇いながら戦うと香恋でもきついのだろう。
俺がそんなことを思っていると香恋が続けてこう言ってきた。
「それと今日はなるべく魔物との戦闘は避けて進んでいくから。なるべくバレないようにね」
バレないようにと言われても困るのだが、香恋の様子を見て色々判断すればいいのかな?
そうして俺たちは一つ下層に降りてダンジョンを進んでいった。道中はなるべく魔物にバレないように進んだが、やむをえず戦った魔物も何体かいた。
魔物と対峙した香恋の強さは凄まじく、まさに瞬殺といった感じだ。これが勇者の力かと思いつつ、メアやネムもこれだけ強いのかと思うと、ますます俺の場違い感が強くなるな。
そんなことがありつつもこの階層のボス部屋らしき場所に辿り着いた。
「真裕、心の準備はいい?」
俺はその言葉に静かに頷くと、香恋とともにボス部屋の中へ入って行った。ボス部屋の大きな扉が閉じると、こちらに一匹の弱そうな水色のスライムが跳ねてきた。大きく跳ねたスライムをとっさに香恋が両手で受け止める。
「「スライム……?」」
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