第24話 vsコピースライム

ボス部屋の大きな扉が閉じると、こちらに一匹の弱そうな水色のスライムが跳ねてきた。大きく跳ねたスライムをとっさに香恋が両手で受け止める。


「「スライム……?」」


 スライムといえばゲーム序盤の雑魚敵のイメージがあるのだが、なぜこんな場所にいるのだろうか。


 そう思っているとスライムは香恋の手の上から離れ、その姿を人型――香恋の姿に変化させた。


「……! なるほど、ボスがスライムってことね。真裕は下がってて」


 そう言う香恋の指示通り、俺は香恋の邪魔にならないように後ろに下がる。香恋は俺が後ろに下がったことを確認すると、剣を持ってスライムに突っ込んでいった。


 それに対してスライムも自身の腕から剣を作り出して、香恋の剣撃に打ち合った。


「……! まさか、私の剣技をコピーした……⁉︎」


 香恋はスライムから一旦距離をとってそう言うと、剣を構え直した。


「《飛光剣(ひこうけん)》」


 香恋が剣を一振りするとそこから光の斬撃がスライムめがけて飛んでいった。


『《飛光剣》』


 するとスライムも香恋に似た声で技名を言葉にし、全く同じ攻撃を繰り出してきた。二つの斬撃はぶつかり合うと、同じ威力なのを証明するように相殺された。


「これは……なかなか強敵かもね。本気で行くよ!」


 そう言って香恋は再びスライムに突っ込んでいく。


「『《一閃》』」


 激しく剣と剣がぶつかり合ったような音とともに香恋たちの姿は目で追えなくなった。様々な方向から剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてくる。少しすると、スライムが地面に激しく叩きつけられ、それと同時に香恋も姿を現した。


「……このスライム、どこまで私をコピーしてる訳……?」


 香恋がそう言っている間にスライムはなんのダメージも受けていないかのように立ち上がった。


「しかも、今のを食らってピンピンしてるし……結構いい感じの一撃だったと思うんだけど。やっぱりコアを潰さないと駄目かな?」


 そう言う香恋だったがその口調からは余裕がない様子がひしひしと伝わってきた。


 何かいい手はないのか……? 相手は香恋の強さをコピーしたスライム。到底、俺が勝てるような相手ではない。だが、それでも、それでも俺に何かできることはないのだろうか。俺に力があれば……。


 そう思った時、俺は今、自分が持っているたった一つの力に気がついた。そしてその力はまる歯車ように、俺の思考を高速回転させた。


 ……! そうか! ……俺の仮説が正しければこの状況を打破する大きな一歩になる。しかし、その仮説が間違っていた場合、俺は高確率で死ぬ……死にたくはないが、ここで引き下がったら俺はまた自分の無力感にさいなまれることになる。俺だって、俺だってただ守られている存在じゃない……俺は勇者の、香恋の――友達だ‼


 俺がそう思っていると、スライムと剣を打ち合っていた香恋の剣が上空へ弾き飛ばされた。


「しまっ……!」


 俺はその上空へ打ち上げられた剣に向かって持っていた指輪、スイッチリングの力を発動させる。


「真裕⁉」


 剣と入れ替わった俺はそのままスライムの上に落下する。スライムの柔らかい体によって着地の衝撃は緩和され、俺は即座にその場を離れた。一方、俺に触れたスライムは俺にその姿を変化させた。俺の仮説が正しければ、これで大幅に弱体化するはずだ。


 あのスライムは最初ここに来た時に香恋に触れた。であれば、触れたものをコピーする可能性が高い。つまり俺に触れれば、俺をコピーして弱くなるという訳だ。


「香恋! 今だ‼」


 突然のことにあっけにとられていた香恋だったが俺の言葉を聞いて我に帰ったようだった。


「う、うん! 《光弾》」


 香恋の放った光の弾丸はスライムの中にあった赤いコアを撃ち抜いて破壊した。するとスライムは形を保てなくなり、崩壊していった。


「ふう、なんとかなって良かった……」


 そう言って俺が安心しかけた時、崩れかけのスライムから光の弾丸がこちらに向けて放たれた。その光の弾丸は見事に心臓部分に命中してしまい、その衝撃で俺は後ろに吹っ飛ばされてしまう。


「真裕⁉」


 慌てた様子で香恋がこちらに駆け寄ってくる。


 油断した……まさか、置き土産の攻撃でやられるなんて……。きれいに撃ち抜かれたせいで痛みも全く感じないし……って、ほんとに痛くないな。


 俺は不思議に思って起き上がると撃ち抜かれた場所からは血一滴たりとも出てはいなかった。


「真裕……もしかして大丈夫なの……?」


「う、うん。なんともないみたい」


 そう言いながら左胸部分を触ると何やら硬い感触があった。そこにはちょうど胸ポケットがあり、中にはアダマンタイトでできたメアの名刺が入っていた。


「あ、メアの名刺……これが弾丸を防いでくれたんだ」


 俺が少しへこんだメアの名刺を見ながらそう言うと、香恋が安心したのか涙目で俺に抱きついてきた。


「……ほんとに死んじゃったかと思った」


 俺はそう言って強く抱きしめてくる香恋を安心させるようにこう言った。


「……俺はそう簡単には死なないって言ったでしょ? メアに世界を滅ぼされても困るからね」


「……もう、バカ」


 そう言った香恋はしばらく、俺を離してはくれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る