第25話 帰還と恐れ
無事にボスであるスライムを倒した俺たちはボス部屋に出現した転移陣からダンジョンの外へと出た。するとそこには野宿をしたであろうメアとネムの姿があった。
メアは俺のことを見つけた途端、目を見開いて勢いよく俺に抱きついてきた。
「真裕! 真裕! 良かったです。本当に無事で……!」
「ごめん、心配かけたよね」
俺がそう謝るとネムもこちらにやってきてこう言った。
「ほんとだよ~。魔王様、すっごく心配してたんだよ~? ……もちろん、ボクもね」
「みんなありがとね。俺のために色々してくれて」
香恋の話を聞くに、流砂の中に飛び込んで行ったらしいし、みんな俺のために危険をかえりみずに助けに来てくれたのだ。それを思っただけで心の内が暖かくなっていく気がした。
「当然です。私たちは真裕の友達、ですから」
「だね~」
何気なくそんなことを言ってくれるみんなに俺は嬉しくも心地よい気持ちを感じていた。
「それじゃ、そろそろあっちの世界に帰ろっか。結構長居しちゃったからねー」
そうして俺たちは全員無事に現実世界に戻ってくることができた。
「ふう、なんだか懐かしく感じるよ」
ほんの数日異世界に行っていただけだというのに、戻ってきたこの世界にひどく懐かしさを感じていた。
「私も。まあ、色々あったからねー」
確かに香恋の言う通り、数日間で体験する出来事にしては内容が濃すぎた気はする。
そんなことを話していると、メアが慌てたようにこう言ってきた。
「はっ! 今日は普通に業務をしなくてはならない日でした。ネム、少し手伝ってください」
そう言うメアにネムは不満そうな口調でこう言った。
「え~、帰ってきたばっかりなのに~? ま、いいけど……」
「香恋。真裕を家まで送って行ってもらえますか?」
「うん、いいよー。お仕事頑張ってねー」
香恋のその言葉を聞くと、メアはネムを引っ張りながら急ぎ足でこの場を去って行った。
「それじゃ、真裕の家まで送るねー」
そう言って俺の家まで送ってくれたのだが、何度か道に迷った。途中、会話に夢中になっていた俺も悪いが、香恋がここまで方向音痴だったとは思っていなかった。
「ふう、やっとついたよー」
「うん、まさか香恋がここまでの方向音痴だったとは思わなかったけど……」
俺が指摘しなければここにたどり着くのにもっと時間がかかっていただろう。まあ、別に支障はないからいいのだが。
「あはは……ごめんね。それじゃ、真裕。今日はゆっくり休んでね」
「うん、ありがとう」
俺のその言葉を聞いた香恋は背を向けてこの場を後にしようとしたのだが、直後、何故か振り返った。
「香恋……?」
「……私、真裕のこと……ううん、私、真裕が友達で良かった!」
笑顔でそう言ってきた香恋に俺も笑い返してこう言った。
「俺もだよ香恋。また遊ぼうね」
そう言って俺は家の中へ入って行った。数日ぶりに帰ってきた我が家に俺の「ただいま」という声が虚しく響く。どうやら両親は仕事に出ているようだ。当然といえば当然か……。
自室に入り、電気をつけると、いつもと変わらない俺の部屋がそこにはあった。
「ふう……」
俺はベッドに横になると、ただぼーっと室内を眺めていた。
メアたちと出会ってから様々なことがあった。だが、俺という存在は何一つ変わらないまま――無力なままだ。こんな自分を知られてもなお、みんなは俺のことを受け入れてくれるのだろうか。
「……寝るか」
その日は泥のように眠った。その現実から目を背けるように、まだ覚めない夢を見るために。
次の日。俺はある一つの問題に直面していた。
「……金がない」
ここ最近出費が少し多いのもあって俺の資金はほとんどなくなっていた。
……やっぱりそろそろ働くべきだよな。
そう考えていた時だった。メアからこんなメッセージが届いた。
『今日、ネムの要望で仕事が休みになったのですが、予定、空いてたりしますか?』
そのメッセージに対して俺は少し迷ったが、正直にこう答えた。
『予定は空いてるんだけど、今お金がなくて……』
するとすぐさまこう返信が届いた。
『お金くらい出しますよ! 私、魔王ですから』
『さすがにそれは……』
いくらメアが魔王という存在だからといって、お金を出してもらっていたらその内それが当たり前になってしまうかもしれない。それだけはなんとしても避けたいところだ。ジュースとか食べ物を少し奢ってもらうくらいならまだいいが、遊ぶ費用を全額負担させる訳にはいかない。色々、遠慮しちゃって心からは楽しめなさそうだし。
俺がそう渋っているとメアがこんな提案をしてきた。
『でしたら魔王城へ遊びに来ませんか?』
なろほど。それなら別に費用もかからないしそうすることにしよう。
そしてメアが俺のことを迎えに来てくれて、俺はまた魔王城へ来ることとなった。メアの部屋に案内されるとそこには椅子に座ったネムと香恋の姿もあった。
「あ、真裕。やっほー」
「おはよう香恋。それにネムも……って少し疲れぎみ?」
ネムの方を見てみると、目の前の机にぐでーっとなっており、明らかに疲れている様子だった。
「あ、分かる~? 昨日、あの後ずっと仕事しててもうぐったりなんだよ~」
それを聞いてメアが慌てたようにこう言った。
「で、ですから今日をお休みにしたじゃないですか」
「はは、二人ともお疲れ様」
俺はそう言いながら用意されていた椅子に座った。メアも椅子に座ると、香恋がこう話を始めた。
「あ、そういえば昨日の私の呟き見た? 今日の朝見たらチョーバズっててさー」
「昨日の呟き……? あ、もしかしてみんなで撮った写真のこと?」
その呟き自体は見ていないが、前に投稿するって言ってたしおそらくそのことだろう。
「そーそー、私もだけどメアとネムのフォロワー、すっごい増えたよねー」
「まさかここまでの反響があるとは思っていませんでした」
まあ、本人たちは分からないかもしれないが、魔王、勇者、ドラゴンの三人が全員美少女だとし判明したらバズるのも全く不思議ではない話だ。
だとするとなおさら俺があの写真に写ったことが心配になるな。ネットの反応はどんなものだったのだろうか……俺は怖くて見れないかもしれない。
「そんなにバズったんだ」
俺がのんきにそんな返答をしているとネムがこんなことを言ってきた。
「でも~、ボクが一番面白かったのは真裕への反応だね~」
「え? 俺?」
俺に反応があるのはまだ分かるのだが、面白いとはどういうことだろうか。
そう思っていると香恋がこう説明してくれた。
「真裕だけ何も情報がなかったからねー。ネットでいろんな考察されてたよー」
「え? どんなの?」
確かに言われて見れば俺だけ有名人ではない訳だし、何者なのか考察されている可能性もありえる話か。どんな考察なのだろうか。
「異世界の国王なんじゃないかとか、裏の魔王なんじゃないかとか様々ですね」
そういったメアの言葉に俺は心の中でこうツッコミをいれる。
裏の魔王ってなんだよ……てかそんなことある⁉ 俺は一般人なんだが……でも、メアたちに囲まれてたらそう思われるか。実際は違ったとしても。
「そ、そうなんだ……まあ、なんにせよ否定的じゃないんだったら良かった」
俺がそう言って少し安心していると、ネムがふと、こんなことを尋ねてきた。
「そういえば真裕っていつも何してるの~? 今日、平日だよね~、学校とかあったりしないの~?」
その言葉に俺は頭が真っ白になってしまう。
「……いや、その、あの……」
俺がそう言い淀んでいるとみんなの視線が俺に集まった。
……来てしまった、恐れていた状況が。だが、どう答えたらいいんだ……。
何かいい案があれば良かったのだが、頭が回っていない今の状況でそんなものが浮かぶはずもなかった。俺は正直に事実を言うことにした。
「……何もしてないです」
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