第13話 ドラゴンな君はからかい上手
「ごめんね〜、昨日みたいに飛んで行けなくて」
「別にいいよ。あの姿だと注目を集めそうだからね」
昨日は夜も遅かったから問題にはならなかったが、こんな昼間にドラゴンが飛んでいたら色々問題になるだろう。
「ある程度のところまで行ったら転移魔法陣があるからそこまでの辛抱だよ〜」
そうして歩いてその転移魔法陣がある場所へ向かっているとネムがこう尋ねてきた。
「そういえば真裕はこの世界の人間なんだよね?」
そう尋ねられ俺は正直にこう答える。
「そうだけど、どうかしたの?」
「いや〜だったらなおさら魔王様と戦友っていうのが不思議なんだよね〜」
確かに異世界はどうか知らないが、この世界では今のところ大きな争いは起こっていないからな。
「真裕、何か隠してたりしてない?」
疑いの眼差しでそう言ってくるネムに俺はとぼけるようにこう返答する。
「い、いや何も隠してないよ」
「ほんとかな〜、怪しい」
そんな話をしていると転移魔法陣らしきものがある場所にたどり着いたようだった。
「まあ、いいや。この話はまた今度するとして。さ、ボクの手を握って? また変な所に行っても困るからね」
また今度この話をされるのは困るがひとまずは乗り越えたようだ。
俺はそう思いながらネムの言葉通り手を握った。ネムの手はメアとは違ったしなやかさをしており、いくらドラゴンといっても女の子なんだなと感じさせられる。
転移魔法陣で街の近くに飛ぶと、俺たちは目的のクレープ屋さんに向かった。クレープ屋さんに着くと、ネムは店員の人にクレープを注文する。
「おじさん、クレープちょうだ〜い。いちごチョコクリームとバナナチョコクリームをお願いね〜」
ネムがそう言うと、キッチンカーからおじさんが顔を出してこう言った。
「おう、いらっしゃい! いちごチョコクリームとバナナチョコクリームだな。少し待ってろ」
そう言っておじさんは見事な手つきでクレープを作っていった。
「あいよ、お二人さん。お二人さんはカップルか何かかい?」
「やっぱりそう見えちゃう〜? ま、そんなところだよ〜」
平然とそう言うネムに俺は動揺しながらこう言った。
「ちょ、ネム⁉︎ 何言って……」
そこまで言ったところでネムがクレープを渡してきながらこう言った。
「何〜、ボクが彼女じゃ不満なの〜?」
そう言われ、俺は一瞬硬直してしまう。
確かにネムもメアとは少し系統が違うが美少女だ。確かにこんな美少女が彼女だったら……。
そこまで考えたところで俺はその考えを振り払う。
「いや、その……」
そう言って動揺する俺を見てネムは面白そうにこう言った。
「ふふ、冗談だよ〜。真裕には魔王様がいるもんね〜」
そう言われ俺はもっと動揺してしまう。
「ちょちょ、俺とメアはそんな関係じゃ……」
「そうなの〜? 魔王様が自分を愛称で呼ばせてたからてっきりそういう関係なのかと思っちゃったよ〜」
俺はそう言われ、ネムに恐る恐るこう尋ねた。
「メアが愛称で呼ばせるのは珍しいの?」
俺がそう尋ねるとネムはこう答えた。
「珍しいもんなんてものじゃないよ。初めて見たくらい〜」
「そう、なんだ」
もしかしてメアって俺のこと……そんなわけないよな?
「まあいいや、おじさんありがとね〜」
「おう、二人とも楽しめよー!」
そう言って俺たちはクレープ屋を後にして近くにあった公園のベンチに座ってクレープを食べ始めた。
「クレープ美味しいね〜、真裕の一口ちょうだ〜い?」
そう言ってネムは俺の食べていたクレープにかぶりついてきた。
「ちょ、ネム⁉︎」
「何〜? ちゃんとボクのも一口あげるから安心していいよ〜?」
そうしてネムは自身の持っていたクレープを差し出してきた。俺はこの状況に今日何回目かも分からない動揺をしてしまう。
それって、間接キスじゃ……いや、俺に女性経験が少ないからそう思うだけで、世間一般ではこれは普通のことなのか?
「そ、それじゃ一口……」
そう言って俺は恐る恐るネムの持つクレープにかぶりついた。そのクレープの味は俺が食べていたものよりも少し甘い感じがした。
「ふふ、真裕はかわいいね〜。魔王様がいらないならボクがもらっちゃおうかな〜?」
そう言ってネムは顔を俺の顔の近くまで近づけてきた。思いもよらぬその行動に俺は鼓動が早くなる。
「それって、どういう……」
「さ〜あ、どういう意味だろうね〜?」
そう言って微笑みながらネムはクレープの残りを食べ始めた。それを見て俺もクレープを食べることに戻る。
すると何かを大きな声で訴えかける集団が目に留まった。
「……? なんだろう、あれ」
俺がそう言うとネムがこう教えてくれた。
「あ~、あれ? あれは反魔王軍の人たちだね~」
「え!? そんな人がいるんだ」
今まで聞いたことのなかった情報に俺は素直に驚く。
「最近出てきたんだよね~。魔王様を良く思わない人とか魔族とかが一定数いるみたい」
「放って置いていいの?」
俺がそう尋ねるとネムはこう説明してくれた。
「魔王様はあんまり気にしてないみたい。そもそも弾圧とかした方が反感買うでしょ」
「……それもそっか」
そんな話をしながらクレープを食べ終えるとネムはこう提案してきた。
「じゃ、次は食後の運動にでも行こうか〜」
「え? まあ別にいいけど、確か近くに運動できる施設あったと思うし」
そう言って俺たちは様々な運動ができる複合施設にやってきた。
ドラゴンの力で色々破壊したりしないかと心配になったが、ネムいわく、魔力で身体能力を制限することができるらしい。魔力って色々便利なんだな。
「お〜、ほんとに色々あるんだね〜」
そう言って興味津々のネムに俺はこう尋ねた。
「ネムは何かやりたいのある?」
「そうだね〜、あれやってみたいな〜」
そう言ってネムが指さしたのはボウリングだった。
「ボウリングね。分かった、じゃ、行こうか」
そう言って俺たちはボウリングができるエリアにやってきた。
ボウリングなんていつぶりだろうか。最後にやったのは小学生かもしれないな。あの時はガターしないような仕掛けになっていたしな……不安だ。
そうして俺たちはボウリングの球を準備してボウリングを始めた。
「じゃあ、真裕からね〜。ボクは二番〜」
そう言われ俺は自分の知識の中のボウリングの投げ方で球を投げた。球は見事の軌道を描き、横の溝に落ちた……ガターである。
ま、久しぶりだしこんなものだよな。ネムは初めてみたいだし焦らずに……。
そう思ってゆっくりと椅子に座るとネムが球を俺のフォームに近い形で投げた。球は見事な軌道を描き、ピンを全て吹っ飛ばした……ストライクだ。
「やった〜、ストライク〜!」
「なっ⁉︎」
ふっ、ビキナーズラックというやつか、まだまだ勝負は始まったばかり、ここから巻き返していけば……。
しかし、その後も点数差は広がっていくばかりだった。俺は次第にやり方のコツを掴んではきたが、ネムには遠く及ばず、ゲームが終わる頃には目も当てられない結果が広がっていた。
「……こういうこともあるよね」
「真裕、楽しかったね〜。さ、次行こ〜!」
そうして俺たちは夕方までこの施設を遊び尽くした。
「はあ〜、楽しかった〜! 真裕はどうだった〜?」
そう尋ねられ俺は正直にこう答える。
「楽しかった。ゲームは全部負けたけど……」
「ふふ、なら良かった〜。また遊ぼうね〜」
そう言って笑うネムの顔はとても魅力的に見えた。
「うん、今度はメアも一緒にね」
「む~、そういうこと言っちゃう~? まあ、誘わないと魔王様怒りそうだけど……それじゃあね~」
そう言って俺たちは解散して家に帰った。
「ふう、今日はなんだか疲れたな。レンさんに仲直りしたことだけ報告して少し早めに寝るとするか」
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