第2話 甘いコーヒーは幸福の味

「あ、あのステラさんですか?」


 その声の方向へ視線をやると、そこには先程の地雷系少女がいた。


「えっと、もしかしてメアさん?」


 俺が一瞬、戸惑いながらそう答えるとメアさんは笑顔でこう言ってきた。


「はい! 私がメアです。ステラさん、会えて嬉しいです」


 本当にまさかだった。先程の地雷系少女がメアさんだったなんて、っていうか女の人だったんだ。


改めて見るとメアさんの美少女ぶりに驚かされる。守りたくなるような少し小さめの体格も相まって、俺は一瞬、心臓が激しく跳ねた気がした。


「こ、こちらこそ会えて嬉しいよ。とりあえずどこか落ち着いて話せる場所に行こうか」


 そう言って俺たちは近くにあった喫茶店に入って空いていた席に座った。二人でコーヒーの注文を終えてから、改めて話を始めた。


「……先程はすみませんでした。約束の時間に遅れてしまって」


「別にいいよ。人助けも大切だからね」


 他の人はどうか知らないが、俺は約束の時間に少し遅れたくらいでどうこう言うような人間ではない。ましてや仲のいいネッ友ならなおさらだ。


 俺がそう言うとメアさんは驚いたようにこう言ってきた。


「な、なんでそれを!? ……あ! もしかしてさっきの人!?」


「あ、気づいてなかったんだ」


 確かにメアさんは地雷系ファッションで美少女だから俺の印象に残ったが、普通、パッと見た人の顔なんて覚えてないよな。


 そんなことを話していると、注文していたコーヒーが届いた。俺は届いたコーヒーをゆっくりと口元へ進め、一口飲む。


 うん、やっぱりコーヒーは苦いな。カッコつけて頼んだけど、これは砂糖を入れないと飲めないな。カッコ悪いところを見せてしまうかもしれないが残すよりはだいぶマシだろう。しかも、こういう見栄はそのうちバレるものだろうし……。


 俺はそう考え、近くにあった角砂糖をいくつかコーヒーの中へ入れて、スプーンでかき混ぜた。それを見てメアさんがこう尋ねてきた。


「ステラさんもコーヒーは甘いのが好きなんですか?」


「ええ、苦いのは苦手で……」


 俺が苦笑いしながらそう答えるとメアさんは微笑みながらこう言った。


「そうなんですね。私も、コーヒーは甘いのが好きです」


 そう言いながらメアさんは俺と同じくらい角砂糖をコーヒーの中に入れてスプーンでかき混ぜた。メアさんにそう言われて一口飲んだコーヒーは甘く、幸福な味がした。


「それで、これからどうする? どこか行きたい所とかあったりする?」


俺がそう尋ねるとメアさんは少し考えた後でこう言った。


「……だ、だったらそのカバンについてるキーホルダーが売っている場所に行きたい、です」


 そう言ってメアさんは俺のカバンについていたゲームキャラのキーホルダーを指さした。


「あ、これ? いいよ、このコーヒーを飲み終わったら行こうか」


 俺たちはよくゲームを一緒にする仲なので行く場所としては適当だろう。まあ、だからこそメアさんが女性だったことに驚いたんだけどね。


 そう言って俺たちはコーヒーを飲み終わると、俺の持っているゲームキャラのキーホルダーが売っているアニメショップ――アニメラボにやってきた。


 入り口の前まで来たところでメアさんがせわしなく辺りをキョロキョロと見回していることに気がついた。


「メアさん、もしかしてアニメラボに来るの初めてだったりする?」


 誰しも初めて来る場所だったらそわそわするものだ。


 俺がそう尋ねるとメアさんはゆっくりと一回頷く。


「は、はい。あまり外出はしないので……少し緊張します」


「ははは、大丈夫だよ。怖い所でもないし」


 そういえばさっきこの辺りにはあまり来たことがないって言ってたな。もしかしたらメアさんは引きこもり系の魔族なのかもしれない。魔族だからといって人間と同じように全員が全員アクティブな人ではないだろう。


 そんなことを考えながら俺たちはアニメラボの中に入っていった。俺がゲームキャラのキーホルダーを買ったコーナーに行くとメアさんは目を輝かせてこう言った。


「こ、これは宝の山ですね。こんなにもたくさんのグッズがあるなんて……」


「結構人気のゲームだからね」


 目を輝かせてグッズを眺めるメアさんを見て俺は思わずかわいいなと考えてしまう。


 そうして眺めているとメアさんはグッズを次々に買い物かごに入れてこう言った。


「と、とりあえずこれだけ買ってきます」


「結構買うね……ま、初めてだったらそうなるか」


 俺も初めてきた時はお小遣いがなくなるまで爆買いしたものだ。


 そう言って俺はグッズを大量に入れた買い物かごを持って、レジに並んだメアさんを見送った。


「この様子だったら用意していたプレゼントも喜んでもらえそうだな」


 そう言って俺は自分のカバンの中にある限定レアグッズにちらりと視線を送った。


 この日のためにメアさんが好きそうなグッズをあらかじめ手に入れておいたのだ。いい反応をしてくれると嬉しいのだが……。


 しばらくして無事に会計を終わらせたメアさんが戻ってきた。


「なかなかいい買い物でした。? あれはなんのコーナーですか?」


 そう言ってメアさんが指さしたのは大量にガチャが置いてあるガチャコーナーだった。


「ん? ああ、あれはガチャコーナーだよ。もしかしてガチャ、回したことない?」


 俺がそう尋ねるとメアさんは若干ウズウズしながらこう答えた。


「はい。ゲームとかであるやつは回したことありますけど、実物は初めて見ました……回してみてもいいですか?」


 実物のガチャを見たことないなんて珍しいな……そっか、魔族だもんね。この世界のことはまだあまり知らないのかもしれない。


「もちろん。たぶん、色々あるからまずは何を回すのかを決めないとね」


 そう言って俺たちはガチャコーナーに向かい、なんのガチャがあるのかを見ていった。


「うーん。たくさんあって悩みますね。どれにしましょう……」


 メアさんはしばらく悩んだ後で一つのガチャを指さした。


「これにします! これならステラさんと一緒にしたゲームですから」


 そう言って指さしたガチャはスライムアンドドラゴンワールド。通称スラドラというゲームのガチャだった。


「スラドラね。大当たりは銀色のサンダードラゴンか……って残り全部色違いのスライムじゃん。もう少しラインナップあったでしょ……」


「いいじゃないですか。スライムかわいいですし」


 メアさんスラドラのスライム好きだからな……だったら実質全部当たりみたいなところあるか?


「まあ、メアさんがいいならいいか」


 俺がそう言っているとメアさんがいつの間にか大量の百円玉を持ってガチャの前に立っていた。


「よし、ひとまずドラゴン狙いで行きます」


「が、頑張って」


 そんなに百円玉を用意して何回やるつもりなんだろうか……。


 そうしてメアさんはガチャを二回三回とどんどん回していく。


「メ、メアさん? そろそろやめといた方が……」


 止まらぬ勢いにそう言った俺だったがそんな俺に対してメアさんは勢いよくこう言ってきた。


「ここまで来て退けません! こうなったらドラゴンが出るまでやります!!」


 あ、これ止めても無駄なやつだ。今、俺にできるのは早くサンダードラゴンが出ることを祈るのみだ。


 そう言ってガチャを回すこと十四回目。


「! これは! ステラさん、ついにドラゴンが出ましたよ!」


「お、おめでとう。無事に出て良かったよ。メアさん、ガチャの中身全部回す勢いだったから」


 俺がそう言うとメアさんは我に返ったかのようにこう言った。


「う、またやってしまいました……いつもこうなると歯止めが効かなくて……」


 俺はそう言って落ち込むメアさんを慰めるようにこう言った。


「ま、まあ、コンテンツにお金を落とすのも大切ですから」


 そうしてその後、出たガチャの中身を整理していると一人の少年が先程のガチャにチャレンジしようとしているのを発見した。


 少年よ。悪いことは言わないからそのガチャに手を出すのはやめておくんだ。サンダードラゴンは思ったよりも出ないぞ!


 そんな俺の思いとは裏腹に少年はやる気満々でガチャにお金を投入していた。


「よーし、今日こそサンダードラゴンを出すぞ!!」


 そう言って勢いよくガチャを回した少年だったが、数回した後、お小遣いがなくなったのか撃沈していた。どうやらサンダードラゴンは出なかったようだ。


 最近のガチャはなかなかいい値段がするからな。小さい子の財力では大量に引くことは難しいだろう。


「うう、弟のためにもサンダードラゴンを手に入れないといけないのに……」


 少年がそう呟くと、いつの間にかメアさんが少年に近づいてこう言っていた。


「あの、もし良かったら交換しませんか? このドラゴンとそのスライム」


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