第33話 龍族の誓い
しばらくしてネムが落ち着いた頃。
「……落ち着いた?」
「……うん。真裕、ちょっと見てもらいたいものがあるんだけど……」
ネムはそう言うと俺に背を向けて服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ネム⁉︎ って魔法陣……?」
服を脱いだネムの背中には紫色の魔法陣が浮びあがっていた。
「これはお父様につけられた隷属の魔法陣。これがある限りボクはお父様に逆らえないんだ」
「……じゃあ、その魔法陣をどうにかしないといけないって訳か」
実の娘に対して隷属の魔法陣をかけるって……龍王は相当ネムに対して厳しくしてきたんだな。
「うん。でもこの魔法陣はより強い契約の魔法陣で上書きすれば消えるはず」
「契約の魔法陣……具体的にはどうすればいいんだ?」
俺がそう尋ねるとネムは服を着ながらこう言った。
「……お父様の隷属を上書きするような契約は……龍族の誓いくらいかな」
「龍族の誓い……?」
俺がそう尋ねるとネムはこう教えてくれた。
「……龍族の誓いはボクら龍族が一生で一度しかできない契約なんだ。内容は誓った相手への絶対服従。その代わり、身体能力、魔力を劇的に上昇させることができるっていう」
「ぜ、絶対服従⁉︎ あ、相手は誰にするの……?」
方法がそれしかないというのならするしかないのだが、問題は誰とその契約をするかだ。契約した相手に絶対服従してしまうのだから慎重に選ぶ必要があるだろう。
「……真裕ってほんとに鈍い所あるよね〜。ボクと契約するんだったら真裕以外あり得ないでしょ」
「え⁉︎ 俺⁉︎ ちょ、ちょっと待って。俺でいいの……?」
こんな美少女を絶対服従なんてさせたら色々まずい気がする。いや、別に悪いことをしようとする気はないけど……。
「……真裕でいいんじゃなくて、真裕がいいの。それとも真裕はボクと契約するの嫌?」
その聞き方はずるい気がする。ネムにそんなことを言われて断れる訳がない。
「……分かった、契約するよ。どうしたらいいの?」
「契約の魔法陣はボクが作るから……ボクの魔力を、一回真裕の中を通してからボクの体に戻せば契約できるよ。そのために……ボクの手を握っておいてくれる?」
言葉通りにネムの両手を握ると何かが俺の中に流れ込んできた。これが魔力だろうか。
「手を離さないでね〜。すぐ終わるから」
そうして魔力が体の中を巡り終えるとどうやら契約が終了したようで、ネムが俺の手を離した。
「終わったの……?」
「うん、契約完了〜。背中の魔法陣が消えてるか見てくれない?」
そう言われ俺はネムの服をめくって、背中にあった魔法陣の様子を確認した。すると、先ほどまであった紫色の魔法陣は綺麗さっぱりなくなっていた。
「消えてるね。どうやら上書きできたみたいだ」
俺がそう安堵しているとネムがからかうようにこう言ってきた。
「これでボクは真裕のものになっちゃったんだね〜。どう? ボクを好きにできるようになった感想は〜」
「いや別に命令とかしないから。今までと何も変わらないよ」
俺がそう答えるとネムは自分の体の様子を確認しながらこう言ってきた。
「そう〜? ボクの方は契約のおかげで力が有り余ってるよ〜。今ならお父様にも勝てるかもね〜」
そういえば、契約したら魔力と身体能力が上がるって言ってたな。どのくらい上がるのかはよく分からないが……。
「後はどうやって龍王を言い負かすかだな……問題なのは龍族の支援が受けられなくなることなんだよな……」
メアや香恋が龍王に手を出せないのは龍族全体を敵に回すことになるからだろう。そこの問題をどうにかしなくてはネムを引き渡すことになってしまう。
そう思っていると、ネムが俺に向かってこう言ってきた。
「……お父様はボクが説得する。でも、もしもの時に真裕もいて欲しい」
「……分かった。じゃあ明日、龍王との話に俺も参加しよう」
まだ不安はいくつかある。正直解決のためのピースも足りていない。だが、俺は俺にできることを精一杯やるしかない。ネムを龍王に渡さないためにも。
そうして俺がネムの部屋を出ようとした時、ネムがこう呼び止めてきた。
「待って真裕……その、今日はボクと一緒に寝てほしいな〜、なんて」
その提案に俺は一瞬、硬直するがこう考え直す。
そうか、龍王が来るってなって不安なのか。これも俺にできることの一つだ。ネムがそれで安心するのであれば、一緒に寝るとしよう。持てよ、俺の理性。
そうして俺はネムに抱きつかれたままで眠りに落ちた。
翌日。俺はネムと共に、メアに交渉をしに行った。
「……分かりました。ネムと真裕の同席を許します。私もネムを龍王の手に渡したくはありませんから」
メアから同席の許可をもらい、魔王城内の一室で龍王が来るのを待つことにした。ネムが緊張しているようだったので、俺はこう声をかけた。
「ネム、そんなに緊張しなくても大丈夫だから。最悪、俺がなんとかしてみせるよ」
龍王に対して俺ができることなどあるのかは分からないが、ネムを安心させるためにそう言うしかなかった。そこには自分を安心させる自己暗示のような効果もあったのかもしれない。
「う、うん。そうだよね。大丈夫、大丈夫〜……」
そうしてネムが深呼吸していると、どうやら龍王が来たようだった。魔王軍の兵に案内され、部屋の中に入ってきたのはネムと同じエメラルドグリーンの髪をした男だった。この男が龍王だろう。
龍王が入ってきた瞬間、とてつもない威圧感が部屋の中を支配した。正直、メアやネムがいなかったら間違いなく逃げ出していただろう。しかし、俺は引き下がる訳にはいかないのだ。
龍王はメアの向かい側の椅子にゆっくりと腰掛けるとこう言った。
「魔王メアリア・シャルティール殿。今日は急な来訪失礼する」
「いえ、構いません。それで、今日は契約に関して更新があると?」
メアがそう尋ねると龍王は丈夫そうな一枚の紙を取り出した。
「そうだ。我ら龍族の支援に関して変更がある……それと、我が娘、ネムをそろそろ結婚させたくてだな。そのために連れ戻しに来たという訳だ」
「……それはネムのためですか? それともあなたのためですか?」
メアはそう言っていきなり攻撃的な口調でそう言った。
「ふむ、魔王殿それはどういう意味かな?」
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