2024/05/04(土)_母の日

 トランでは五月の第二土曜日に母親に贈り物をする慣習がある。通称〝母の日〟だ。私も毎年プレゼントを用意していた。去年は通りすがりの商人がオマケでくれた髪飾り。一昨年は私の読んでいる小説を布教した。今年はどうしようか。私も社会人になったのだ。せっかくならちゃんとしたモノを送るべき、かも。それに友人間で「お母さんに何送った?」みたいな話になるのが怖い。何もしてなければ詰みである。去年までの私は「髪飾りを〝買った〟」と半分ウソの発言にしがみついていた。

 

 母へのプレゼントを探し街に繰り出す。だがしかし、母って何が欲しいのだろう?

 例えば食器や掃除用品を買ったとしよう。それは家族への贈り物であり、母への贈り物とはならないのではないだろうか? ウチは母が家事を担当しているから、つい陥りがちなミスだ。でも服やアクセサリーは母のセンスが分からない。しかも高価い。母としての母は知っている。が、意外と知らない一面も多いものである。

 

 繁華街を抜けて、駅周りのお店もグルグル回る。目ぼしいものは見つからない。いっそこの前のサングラスに合うように赤メッシュのエクステでも送ろうか。いや、それは無いな。あの母は本当に付けかねない。それで近所から弄られるのはだるい。食べ物を送るのもイマイチ。多分お婆ちゃんと父が殆ど食う。母は少食である。

 駅前の雑貨屋では母の日フェアなるものが行われていた。 ハンカチとかコップとか色々売ってる。だがピンとこない。どれも無難ではあるのだが…。結局今日はプレゼントを決めきれなかった。

 

 今日はアセロラの部屋で夕食。アセロラにも母の日について聞いてみた。

「アセロラって母の日とか送る?」

「うん、毛糸のセット。うちのお母さんは編み物が趣味だから」

「あー、そういうのいいなあ。うちの親そういうの分かんなくて」

「そお? でも私も直接お母さんから聞いたわけじゃないよ。昔の会話とか思い出したら案外ヒントが転がっているかもよ?」

 な、なるほど。これがコミュニケーション上手な人間の思考か。

 

 母と喋った事…

 

 母の事って殆ど話した事ないかもなあ。いつも愚痴ったり、ダベるのは私の方。母は聞き手側ばかりだったかも。私って結構甘やかされてたのかもなあ。

 

 そういえば〝あの時〟、何で母は怒ったんだっけ?

 

 確か、母のお気に入りのハンカチを汚したとかそんなだっけ? でもあのハンカチ、そんなにいいやつだったか?

 

 待てよ〝柄〟だ。あのハンカチは猫柄だった。そういえば我が家は食器とかにも猫の柄が入っていた気がする。

 

 あの人、猫が好きなのか?

 

 盲点だった。二十年以上一緒に生活していたが、今日まで気が付かなかった。どうやらうちの母親は猫が好きらしい。明日これらのグッズを探しに行こう。


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