2024/04/18(木)_冷蔵機

 アキニレの想定よりも課題が早終わった為、本日は自習が多かった。時々、アキニレの手伝いで魔法陣の呪文を別の魔法陣にコピペした。が、何をしているのかはよく分からんかった。まあまあ、そんなもんじゃよ。


 で、事件は定時後に寮で起きた。

 夕飯前、ベッドでゴロゴロしていたら、ドアをノックする音がした。この軽いノックはアセロラだ。夜に何だろう。夕飯でもお裾分けしてくれるのだろうか。ドアを開けると、困り眉のアセロラがいた。

「寮の冷蔵機、壊しちゃったかも…」

「え、嘘…」

 突然の告白に戸惑う私。何はともあれ二人で共同キッチンへ降りた。

 冷蔵機はキッチン奥に設置されている。仕組み自体はシンプルで、【リフレジレ_空気を冷やす魔法】と魔力蓄積機によって中の食材を冷やし続ける事が出来る。

 

 が、確かに冷たくない。冷蔵機が死んでいる。このままではベーコン女のベーコンや、先輩方の食材もまとめて腐ってしまう。それはまずい。あと出来れば先輩方が帰ってくる前に、冷蔵機を直してしまいたい。

「え、これどうなってるんだっけ?」私は冷蔵機をパカパカ叩いてみた。

「外側の仕組みは分かんない。中の魔法陣は取り出せるかも…?」とアセロラ。

 彼女は申し訳なさそうに声を出した。最後に冷蔵機を使ったのがアセロラだから、責任を感じているのだろう。大丈夫、アセロラのせいではないと思う。とっとと修理して彼女を安心させなければ…。

 ネジを外して、冷蔵機の底蓋を取る。青い魔法陣が顔を出した。だが魔法陣が故障している線は薄いのだ。魔法陣は表面がちょっと傷ついたくらいじゃ壊れないから。

 

「待って、なんか汚れてない?」アセロラが魔法陣を指さした。


 確かに…。魔法陣に付着した物質をタオルでふき取ってみる。水色の汚れだ。だが繰り返しになるが、少し汚れたくらいで魔法陣は壊れない。魔法陣は基本的に頑丈なのだ。弱点をあげるなら、魔力を宿した物質くらいか。魔法陣の呪文は魔力で焼き付けてあり、魔力物質を長時間近づけると、誤作動を起こしたり、機能不全に陥る事がある。だが、冷蔵機の中に魔力を宿した物資なんて…。

 

 そこまで考えて完全に理解した。

 

 冷蔵機を慎重に確認する。アセロラのハムや、私が過熱して食べきれなかったポテト、先輩方の野菜、お菓子…。冷蔵機内に魔力を宿した物質なんかない。


 私が隠したスライムを除いては…。

 

 アセロラが私の肩に手を置いた。

 

 「リン、私この汚れ見覚えあるかもしれない」

 

 「そ、そそそ、そう?」

 

 恐る恐る振り向く。アセロラが目を吊り上げていた。ふざけて怒っている時のジト目ではない。

 

「もう二度と冷蔵機にスライムは入れないで」とアセロラ。

 

「い、いやでも悪いのは私であって、スライムは…」

 

「入れないで」

 

「で、でもちゃんと包装すれば大丈夫と思うし…」

 

「入れないで」

 

「本当にごめん、もう入れません」

 

「ありがと、それなら許す!」

 

 一緒に生活しているのだ。まずアセロラや先輩方に相談すべきだったと思う。アセロラは清々しい奴だ。私なら三日三晩は根に持つだろうに。その後、アセロラと冷蔵機を直した。魔法陣は【ピューリファイ_魔力を浄化する魔法】をかけて、綺麗な状態に戻した。この魔法陣をセットし直して底蓋を戻したところ、冷蔵機は動き始めた。本当に一安心である。そしてごめんなさい、アセロラ。彼女とスライムの溝はますます深まってしまった。いつか挽回できる日が来るのだろうか。

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