2024/04/17(水)_検索魔法

 今日も魔法陣の解読を進める。

 二階の資料室から教本〝魔法文法基礎〟をお借りした。資料室には様々な魔法に関する書物が格納されていた。自己啓発書とか、地元の観光ガイドもあった。時間があれば覗いてみたい。

 

 三階に戻り、魔法文法基礎を広げる。一先ず、大まかにどんな処理があるのかを追っていきたい。魔法陣に軽く目を通したところ、難易度自体は学校のものと、それほど変わらない様に見えた。ただ何か所か全く見たことのない記載、設定がある。午前中を費やしてざっくりとした処理の流れを理解した。恐らく以下構造になっている(はず)。


①肥料の存在を魔法陣が感知する処理

②ユーザが魔法陣の使い方を間違ってないかチェックする処理

 ・肥料や土の規格が正しか?

 ・効果範囲内に邪魔な物体はないか?

 ・他の魔法の影響を受けてないか?

  などなど

③実際に土と肥料を混ぜる処理

 土を振動させている?

④土と肥料が混ざっている事を確認する処理

⑤作業完了


 大まかな流れは理解できたが、詳細な部分がまるで理解できない。初めて聞く別の国言葉みたいだ。特に①が理解できない。肥料を検出する呪文なんか初めて見た。それに土属性がベースになっているが、水属性や火属性なども使われている。かなり複雑だ。

 いつの間にか時間は十四時を回っていた。紙いっぱいのメモと腹ペコな私。そろそろ昼休憩にしようか。今日はメロンパンの気分だぜ。そう思った時だ。


「出来たー!」


 アセロラが立ち上がった。

 

 もう出来たの?私なんか三割も解読出来てない。

「じゃあアキニレに提出してくるね~」とアセロラ。

 少ししてアセロラが開発ルームに戻ってきた。

「細かいミスはあったけど、今回はオッケーだってさ!」

 ま、マジか…確かにアセロラが呪文をどれくらい出来るのか聞いたことはなかった。滅茶苦茶出来るじゃん。最早裏切りである。(別に裏切られてはいないが)アセロラは顎に手を置いて、私の魔法陣をじっと見つめた。

「ふーむ、どれどれ、あー成程ね」とアセロラ。

「な、なに?」

「リンは魔法陣、読み慣れてないでしょ?」


 ぎくり…!


 先輩社員どころか、アセロラにそれを見抜かれるとはああああああああああああ。

「うん、正直に言うと…そうかも」

 そんな風に答えるしかない。「そうかも」じゃねえよ、分かり切っていただろうが!

「上から順番に読んでると、いつまで経っても終わらないと思うな。勉強になるから良いとは思うけどね」

「え、ど、どういう事?」

 まさか逆から読めとでも?

 つい反射的にアセロラに質問をした。

「必要な部分をピックアップして読んでいかないと、えーと…」

 アセロラは社用の魔導書をパラパラとめくる。

「会社の魔導書を見てごらん。業務用に便利な魔法が色々入ってるから」

 そういえばこの課題につきっきりで他のページを見ていなかった。アセロラに言われた通り自身の魔導書を確認する。すると後ろの方に開発ツールとして、業務を便利にする魔法陣がいくつか保存されていた。

 

【ワード・サーチ_魔法陣から任意の文字を検索する魔法】

【ワード・カウント_魔法陣の文字数を数える魔法】

【コピー・ペースト_魔法陣の文字をコピー、ペーストする魔法】

 などなど

 

 アセロラの言葉を思い出した。

「必要な部分をピックアップして読んでいかないと」

 そうか、この課題のゴールは全ての呪文を理解する事ではない。魔法の効果範囲を変更する事だ。だから沢山ある呪文の中から魔法の効果範囲に関する記載をピックアップする必要があったのだ。【ワード・サーチ_魔法陣から任意の文字を検索する魔法】が使えそうである。対象のページを開いて、魔導書をなでる。

 

「ブート(起動)」


 すると無色の魔法陣が浮かび上がった。直径は三十センチくらいだ。魔法陣の下部にテキストボックスがある。どうやら検索する文字と対象魔法陣を入力するようだ。試しにテキストボックスに「a」を入力してみよう。魔導書用ペンで空に向かって「a」と書いた。魔法を発動する。

 

 「ワード・サーチ」

 

 魔法陣が光を放つ。オレンジ色の魔法陣にびっしりと書かれた呪文のうち、「a」だけが紫色に色付いた。成功である。検索機能を使うと作業がかなり効率化された。「五メートル」とか「効果範囲」「設定」みたいな関係のありそうな語彙を検索する事で、必要な処理を探すことができた。


 三時間後、なんとか魔法陣の改修が完了した。途中どうしても分からない呪文がり、またアセロラの力を借りてしまったのだが。(アセロラがいなかったら、絶対期限内に終わらなかった)彼女は相当できるらしい。私も頑張らなくてはと思った。

 夕飯はじゃがいもの炒め物を作り、アセロラにも差し入れた。じゃがいも女からのせめてものお礼である。毎晩ベーコンばかりのベーコン女はそこそこ喜んでくれた。

 

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