2024/04/16(火)_撒いた肥料を土と均等に混ぜる魔法

 先週話していた農家さんからの依頼について進展があった。

 アキニレが設計書を書き終えたので、私たちも魔法陣の製造を手伝う事となったのだ。いよいよ本格的な業務に移り始めるのか。私が入社してからもう二週間が経った。(時間って怖い)

「今回の業務は魔法陣の改修。つまり以前ウチで作成した魔法陣をアップデートする」

 アキニレが魔導書をなでるとオレンジ色の魔法陣が起動した。


 魔法陣の簡単な概要を以下に記載する。

 

【ミクミーヌァ_撒いた肥料を土と均等に混ぜる魔法】

 概要   :撒いた肥料を土と均等に混ぜる

       効果は半径五メートル

 依頼者  :トールマン様(農家)

 ベース属性:土

 制作難易度:C

 製作者  :アキニレ、他二人

 制作日  :2023/06

 

「今回の主な改修ポイントは三点。その中の簡単な一点をリンとアセロラに任せたい」


 改修ポイントは以下の三つだ

 ①対象の肥料の種類を追加(アキニレ担当)

 ②肥料の種類に応じて、魔法の発動時間を調整(アキニレ担当)

 ③魔法の効果範囲を五メートルから七メートに変更(リン、アセロラ担当)


「今回は研修的な意味も含んでるから、二人別々で作業してみてほしいかな。早く終わった方を俺が手直しして採用させてもらうよ」

「相談しあうのも禁止ですか?」と私。

 ふと横を見るとアセロラが「黙ってればいいのに!」という顔をしていた。やば、馬鹿正直なのは私の愚かな部分である。

「うーん、直接答えを教えちゃうのはナシかなあ。でも使えそうな情報はお互い共有してもいいかもね」

 まあ、それくらいなら…私はほっと胸をなでおろした。

 

 私とアセロラは会社近くの公園に来た。まずは実際に魔法陣を使ってみる。肥料はアキニレからもらった。この魔法陣の設計の時、テスト用に買ったものが残っているらしい。

 地面に肥料を撒く。そしてバッグから魔導書を取り出した。魔法陣はアキニレに複製してもらっており、私とアセロラ、それぞれの魔導書に保存してある。

 

「ブート(起動)」

 

 魔法陣のページに手をかざすと、空気中にオレンジ色の魔法陣が浮かび上がった。これで魔力を支払えば、魔法が発動する。土と肥料がわちゃわちゃと混ざるはず。


「ミクミーヌァ」

 

 魔法を呼ぶ。すると魔法陣の輝きが一層増した。しかし何も起こらない。

 

 あれぇ?


「あ、エラー出てるよ!」

 アセロラが魔法陣を指差した。確かに魔法陣の下に文字が浮かび上がっている。 

 

〝土の企画があっておりません〟

〝より柔らかい土を使用してください。詳しくは~〟

 

「ふむふむ、もっと柔からい地面じゃなきゃダメだって」魔法陣越しにアセロラが答えた。

 成程…確かに畑と公園では土の質が全然違う。ユーザが間違えた使い方をした場合、エラーが出る仕様となっているのか。こういう仕様も含め、アキニレが作ったのだ。私、こんなの作れるのかなあ。

 花壇の端っこを使わせてもらう事にした。ここの土なら大丈夫なはず。土に肥料を撒き直す。

「ミクミーヌァ!」

 すると今度は地面がフツフツと振動し始めた。うわ、なんか始まった。まるでフライパンの上で火が通り始めて来たホットケーキの生地みたいだ。

 そして約一分後、魔法陣が輝きを失った。土を軽く掘ってみる。土と肥料が均一に混ざり合っていた。うん、これが魔法陣の力だ。私はこの魔法について内部の呪文や設定を知らない。が、魔法陣さえあれば誰でもこの魔法を使うことが出来るのだ。

 

 で、私たちの課題はこの魔法の効果範囲を広げる事である。

 

 会社に戻ると直ぐに魔法陣を起動した。取り敢えず魔法陣にプログラムされた呪文を解読するしかない。外国の言葉を訳す様に、プログラムの意味を一つずつ読み解いていく。地道な作業だ。気合いを入れていこう。

 気が付くとあっという間に定時(十八時)を迎えていた。一日が終わるのが早い…。まだ十分の一程度しか読めていない。お借りした参考書を資料室に戻しに行く。これは…本当に三日で終わるのだろうか。

 

 ちなみに昼ご飯は公園横のパン屋でパンを買った。パンって二個か三個でいつも悩む。二個だと夕方小腹がすくが、三個だとちょっと多い。しかも都会のパン屋はやっぱ高価いぜ。結果私は比較的小さくて安めのパン二個(バターロール、塩パン 各190レム)と食べたいやつ一個(宝石チェリーパイ 三百レム)を購入した。特に面白味のない解決策である。


 私はそういう女なのだ。(文句は言わせない)


 宝石チェリーパイは大粒のチェリーが三個乗っていて、大変満足だった。

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