2024/04/15(月)_自己紹介


 今日は朝会があった。

 ご存じの通り、新入社員の自己紹介もある。

 アセロラはやっぱりうまく自己紹介出来ていた。癪なのであまり書かない。

 そして男子三人衆。彼らについても、少しずつ分かって来た。


 ランチュウはやはりお堅いイメージがある。丸メガネとサイドを切り揃えたボブカット(暗めの水色)が特徴。

「出身はトランではなく浮舟です。僕の国では、魔法は属性毎に役割が明確に定義されています。僕の水属性は沈静、回復です。そういった経緯もあり、学生時代は回復魔法の研究を行っていました」

 自己紹介は学生時代の勉強と、出身地についてだった。私よりずっと真面目で遊びのないものだったが、本人は気にしていないようだ。

 

 スワローは風属性だ。アセロラと同じ、トランのイント出身。男子三人衆の中で一番おしゃべりが上手そうなのは彼だ。

「俺はこのイントに沢山の先輩、後輩がいます。ですので地元に貢献出来る仕事を!と思いワークツリーに入社しました。ここでも沢山の出会いがある事を楽しみにしていますっ!」

 爽やかな奴だ。絶対、集団スポーツしてただろ、おい。


 アンプはとてもガタイがいい。

「自分は昔から不器用なところがあり、複数のタスクを掛け持つ事があまり得意ではありませんでした。しかし、その分一つの事にのめり込むのは大変得意であります。ですのでこの会社で呪文のプログラム能力を兎に角伸ばしたいと考えておりますっ!趣味は筋トレであります。筋肉は全てを解決しますので…。好きな魔法は肉体強化魔法でありますっ!魔法の属性は雷であります!」 

 不器用なところにはシンパシーを感じている。

 

 そしてやっと私の番だ。「初めまして、リンです」から自己紹介を始めていく。

「私は春からイントに来ました。町ゆく人がみんなお洒落で、スタイリッシュだから驚きました。私なんか大きなフリルのブラウスが本当に子供っぽくて…いっその事、引きちぎってやろうかと思いました」

 何人かがクスクスと笑っているのが見えた。

 ウケてるっ!

 畳みかけなくては!!

「食べ物も美味しいものばかりで、驚いています。同期のアセロラにレストランに連れていって貰って…」

 よし、うまく話せている。

「あ、それと驚いたのは、こっちの人はスライム食べないんですね! アセロラに頑なに拒否されちゃって…」

 一瞬、先輩たちが「は?」という表情をした。


 私は「あれ…?」という顔を返す。


 間違えない、先輩方が動揺している。予想していたリアクションと違う。スライム食という異国の文化に驚いてもらいつつ、私とアセロラのローカルギャップエピソードでクスリと笑ってもらう予定だったのに! そこまでスライム食って珍しいのか?

 私はどうしてよいか分からなくなり「という訳でせっかくイントに来たので、スライム以外にも美味しいものに沢山出会いたいと思っています! よろしくお願いいたします。」で締めてしまった。強引に話をまとめようとした結果、スライムが好きな奴ではなく、スライムしか美味しいものを知らない奴になってしまった。悲しきモンスターの誕生である。自分で言うのもなんだが、大変心外だ。

その後、朝会は各チームの進捗報告を行って終わりとなった。

 朝会後、アキニレが「自己紹介すごくよかったよ、とにかくインパクトがあった。衝撃的で印象に残る自己紹介だったよー」と語彙力の死に絶えた賞賛をくれた。何というかシンプルに謝りたい気持ちになった。


 だがそんな失敗はもういい。だって今日は初の給料日である。上長からお給料をいただいた。勿論十日分しかないので額は少ない。だが初めてのお給料なのだ!!自然と口角が上がるものだ。

 いただいた額は約九万レム。給料のうち三万レムは実家に送る。食費は一月あたり四万レムほど。(これでも頑張った方だ)家賃や水道代等は寮なので会社支給。結果、今月は二万レムが残った。学生時代の貯金と足せば、現在の手持ちは十三万レム。大金持ち…とまではいかないが自分で使えるお金があるって凄い事だ。

「初任給で親に何か買ったりする?」

 昼休憩の時、アセロラを小突いた。

「私は家族で外食することにしたよ!」

 なるほど、それはアリだな。ただ私の場合、なかなか実家に戻れないからなあ。それだとだいぶ先になってしまうだろう。親への贈り物についても考えておかなければ。良い気分である。家に帰ってからも何度も封筒の中身を数え直した。

 ちなみに金曜日に狩ったスライムがまだ消費し切れていない。(五キロあったスライムのうち、可食部は一キロ程)一先ずはアセロラや他の社員には内緒で、寮の共有冷蔵機にしまってある。魔法で冷やしておけばもう暫くは保存できるはずだ。

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