2024/04/14(日)_自己紹介練習

 アセロラと過ごす日曜日。最近そればっかりな気がする。今日は給料日前だから、アセロラの家でダラダラと過ごす日だ。

 

 そう、明日は給料日である!


 まだ一ミリも会社に貢献していない新人五名が会社からお給料という名の施しを賜る日である。だが給料は給料だ。「貰ったお給料で何を買おう?」とか「どこに行こう?」とかそんな話をした。私は鈴色歌劇団のミュージカルを見てみたい。アセロラも欲しい服や化粧品が色々とあるそうだ。とにかく浮かれムードだった。

「そういえば化粧って殆どした事ない」

 そう言ったらアセロラがファンデーションやコンシーラーを貸してくれた。アセロラにメイクを施してもらい、彼女自慢の【ヘアセット_髪をセットする魔法】もかけてもらった。

「お、おお…」

 いざ鏡の前に立って、良い感じのリアクションが取れるか不安だった。けれど素直に驚いてしまった。私にしては割と…いや、結構いいのではないだろうか?アセロラもご満悦の様子だった。(ドヤ顔がちょっとだけ癪だったが)これが都会に染まるという事ならば、それも悪くないかもしれない。

「明日から会社にもお化粧して行ったら?」

 アセロラからそう言われて私はハッとした。

「そういえば明日、自己紹介だ」

 明日に備えて自己紹介の練習である。前回のような失態は許さない。他の社員と仲良くなれるような話題を用意するのだ。私は「イントに来て驚いた事」をメインで話す事にした。自分の服が思ったよりダサかった事、大きな城に驚いた事、アセロラがスライムを食べてくれなかった事など。若者らしいフレッシュさのある話題である。それにイントの事を話せば先輩方とも共通の話題が増えるはずである。完璧すぎてビビる。

 一方のアセロラは余裕そうである。小説なんか読んじゃってまあ。

「アセロラは練習しないの?」

「うーん、しないかなー」

「随分と余裕そうじゃん」

「まあねー、だって自己紹介って正解はないでしょ?」


 出た、余裕のあるコミュ力強者のムーブ!


「確かに自己紹介に正解はないよ。でも失敗はある」


 そう、失敗はあるのだ。自分で言っておいて何だが、なかなかの名言だと思う。自分のワードセンスに自然と笑みがこぼれる。

 アセロラはゴロンとベッドに横になった。やっぱり彼女は余裕綽々である。実際、明日もスムーズに自己紹介を終えるのだろう。そう思うとやっぱり腹立たしい。私は頑張って腹から声を出した。アセロラの読書を邪魔してやるのだ。


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