2024/05/09(木)_文字を修正する魔法
本日も魔法陣の選定課題。雨季の討伐会〝トライ・ブルー〟で各団体に貸出す魔法陣を選ぶのだ。明日が発表当日! 十五時になって、やっと資料ができた! 先輩にレビューしてもらおうと思ったが、肝心のアキニレがいない。かなり遅めだが昼休憩だろうか。
どうしようか、時間もないしな…
周囲をキョロキョロしていたらミラーと目が合ってしまった。うわお…、ミラーのレビューとか絶対に怖い。「リン、ここもダメだ! そこもダメだ! ダメダメじゃないかっ!! やる気がないのかっっ!!!」ってボコボコにされる未来しか見えない。でも時間もないしなあ…背に腹は代えられない。しょうがないからミラー見て貰う事にした。(ここまで失礼な思考)
「あ、あの…こちら来週発表する資料なんですけど…」
「だからどうした?」
やべ、ミラーはお弁当のサンドイッチを食べていた。
「あ、後で内容を確認していただいても宜しいでしょうか」
「分かった」
ミラーはその場で資料に目を通し始めた。
いや、今じゃなくても!
それに心の準備が…
「まず文字が小さいな」
「えっと、どこら辺でしょうか?」
「全部」
ワオッ。
全修正、いただきましたー。ぱふぱふー。
「それから文章の中に口語表現が混じってる。文語に修正しなさい」
「はいっ」
その他にも文章の形式について何点か指摘を受けた。それから資料の根拠が甘いとも言われた。「今回は内部の研修だから見逃す。が、実際の業務では認めないからな」との事。ランチュウと同じことを言われてしまった…。
とにかく急いで修正しなくては。
私は急いで新しい模造紙を貰ってきた。どうせ全修正なのだ。作り直した方が早い。ペン先をインクに浸す。魔法で紙に文字を焼き付ける事も出来る。だが残念ながら、今の私の技術では普通に書いた方が早いのだ。私はとにかく作業に没頭した。
作業をしていると時間はどんどん溶けていく。特に細かい部分が気になりだすとオシマイである。「なんかこの直線、真っすぐに引けてねえなあ」とか「文章の最初と最後で微妙に文字の大きさが変わってる気がする」なんて言っているうちに定時になっていた。
「ダメだ、研修ごときに残業代は出せん、帰れ」とミラー。
「あとちょっとだけお願いします!」と私。
すると通りすがりのアセロラが私の模造紙を覗き込んできた。
「リンの資料、もう出来てるじゃん」
「まあ、そうなんだけど細かい部分を修正したくて」
「そんなの魔法使えばいいんじゃない?」
アセロラはそう言うと自身の魔導書から無色の魔法陣を取り出した。
【エディット・インク_文字を修正する魔法】
アセロラが私の模造紙上の文字を指でなぞる。すると紙の上の文字たちがスルスルと動き出して綺麗に一列に並んだ。そして文字の上に二本の指を置いて、指と指の感覚を広げるように動かすと、文字が少しずつ大きくなった。
「な、なにそれ!?」
「知らなかったの? 全員の魔導書に保存されてるからリンも使えるはずだよ」
それがあれば修正なんか〝秒〟で終わったやーん。私は白目を剥きたい気持ちに苛まれた。人生で「白目を剥きたい!」と感じたのはこれが初めてである。よく考えれば模造紙での資料作成にここまで手こずっているのは私くらいだった。私は魔法の力をお借りして、資料を速攻で仕上げた。そして即興で作詞した〝おろか者の歌〟を口ずさみながら帰路についた。
愚か、おーろか、お前は愚か♪(愚か!)
私は愚かで、お前も愚か♪(愚か!)
皆が愚か♪(皆が愚か!)
幸せ愚か♪
イエイ、イエイ、わーい♪
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