2024/04/21(土)_初任給と贈り物

 休日、お昼の十一時。私は駅前の繁華街をグルグルと周回していた。

 初任給を貰ったので、父と母、お婆ちゃんに贈り物を考えている。しかし今のところ良いアイデアは見つかっていない。どうせなら三人で使えるものがいい。掃除道具や食器とかだろうか。でも何か堅すぎるよな…。それにどうせならもっと面白くて、都会的なものがいい。(ここ大事)

 お土産屋さんが目に入った。イント城の描かれたペナントやイントクッキー等、イントに観光に来た人に向けたお店である。イントらしいものならここでも見つかるだろうか。イント限定のクッキーやチョコレートねえ。お土産には喜ばれるかもしれないが、初任給の贈り物としては弱い。もう少し値の張るものでもいいかもだし。

 店の端っこではジョークグッズも売られている。ショックペンである。ぱっと見は普通のペンだが、握ると静電気が流れるイタズラグッズ。中に雷魔法の魔法陣が組み込んであるのだろう。都会にはないし面白い…。だが流石に両親は使わないか。私のプレゼントで両親がイチャつくのもちょっとな…。「これは私が買おう」何気なく机に置いておいたら、アセロラが引っかかるかもしれない。 私が求めるのはこういう面白さではない。もっとこう、日常使い出来ると、出来ないのギリギリのラインというか…。うまく表現できないが〝無駄にはならないが、普段なら買わないようなもの〟が欲しい。

 次に眼鏡屋の横を通った。

 

 ん?

 

 店の外からクールなサングラスが目に留まった。三角のレンズが実にパンクだ。

 

 これはお婆ちゃんに似合う、絶対に。

 

 ウチの祖母は鼻が高く、キリッとした顔立ちだ。長年冒険者だった事もあり、今でも背筋はシャンと伸びている。このサングラスを掛け、メッシュでも入れてほしい。すぐにでも伝説のお婆ちゃんバンドが完成するだろう。雷に打たれたような衝撃である。

 

 これにしよう!

 

 お父さんもこれでいいか。農業をする時の紫外線対策って事でさ。(あまり似合わないとは思うが)それならお母さんもこれにするか。お父さんよりは似合いそうだし、仲間外れもよくない。結果、三本のサングラスを購入し、プレゼント用として梱包してもらった。一本あたり三千五百レム、三本で一万五百レムである。


「家への贈り物決めたの?」

 寮に戻ると、アセロラが私の紙袋を指さした。

「うん、一人一本サングラスにした」

「どういう事?」

 アセロラは目を丸くしていた。

「多分ウチのお婆ちゃんサングラス似合うんだよ、だからいいかなと思って」

 せっかく理由を説明したのに、アセロラは「は?」という顔のままだ。

「ご家族は好きなバンドとかあるの?」

「いや、特に…」

「じゃあお婆ちゃんに似合うからって理由で、三本もサングラス買ったの?」


 そう言われてみるとそうである。

 この出落ちアイテム、家族分必要だろうか。


「アセロラ、一本いる?」

「い、いや大丈夫かな」

「そうだよね…」

 アセロラの「サングラスは一本で、残りのお金でお菓子でも送ればよかったのに」というド正論に対し、私は「あ、ああ確かに…」と頷く事しかできなかった。家族からどんなリアクションが届くだろうか。娘が都会に染まっておかしくなったと心配されるだろうか? それともアイツはこういう奴だなと納得されるだけだろうか。少なくともこういうズレ方がしたかったわけではないのだが…。

 まあ、いいか。今更買い直すのも手間である。

 宅配業者に持っていった。送り状の「品物」の欄に「サングラス 三本」と書いたら耳が真っ赤になった。一応「割れ物」の欄にチェックマークを付けたが、最悪粉々になっても構わない思う。業者の玄関には仕事を待つ伝書バトやフクロウがきちんと一列に並んでいる。この中の一匹が私のサングラス(三本)を運ぶという、死ぬほど重要度の低いミッションにアサインされるわけだ。そう思うと無性に申し訳なくなってきた。

 家族からどんなリアクションが届くか楽しみである。


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