2024/04/07(日)_イント城と美術館

 社会人になって初めての日曜日。

 私は繁華街に沿って街を歩いた。目的地は高台にあるイント城と、その麓の美術館だ。高い塔が幾重にも連なるイント城は一キロ近く離れた社寮からでも見えた。この街に来た時、一度は見に行こうと心に決めていた。

 外は快晴、春の生ぬるい空気が私は好きだ。

 城に近づくにつれて、大きな城の全貌が明らかになる。シンプルに凄い、こんな高さの建築物を始めて見た。深緑、円錐形の屋根が空に吸い込まれるようだ。滑らかなアカンサスの装飾が実に美しい。どうやって作ってるんだろうか。城に入れる訳ではないから、周辺を散策した。大きな門や、門の両脇にそびえる天使像など。凄いなあ、デカいなあ…。

 

 姉がこれを見た時、どんな風に感じていたのだろう…。

 

 城から駅に戻る道の外れに美術館があった。

 説明書きによると、敷地の面積は二万平方メートル。イントが誇る最大クラスの美術館らしい。今日は画家ビショップの油絵展を観ていく。常設展はまた今度来た時に。ビショップの絵は黒が特徴的だ。様々な動物の骨を炭にして絵の具を作るらしい。その情報を知ったせいだろうか。彼の絵は生々しくて柔らかい雰囲気があった。私はトマトの絵を気に入った。トマトの断面には切れ味のあるハイライト…にも関わらず、全体としては柔らかい雰囲気だった。

 いい絵を見ると、私は自分が透明になる錯覚を覚える。絵を上から下まで順番に眺める。遠くから離れてもみる。次に近づいてみる。「どんな順番で描かれたのだろう」って考える。そして最後に小さくため息を吐く、事もある。これが良い事なのかは分からない。ただ…私なりに区切りをつけたから今の私がいる。

 帰りにポストカードをニ枚買った。私はあまり美術館でものを買わない主義だ。それがカッコいいと信じている。でも初めてのイント美術館だ。

「二枚で三百レムならいいか」と思えた。

ポストカードの裏には例のトマトの絵。一枚は自分用、もう一枚は家族用だ。今度手紙でも書いてやろう。

 美術館を出ると、美しい夕焼けが広がっていた。

 姉よ、イントの夕焼けも悪くないと思うよ。

 私は右手に持っていたポストカードを魔導書の間に挟み、カバンの奥にしまい込んだ。

 ※冒険者ギルドに用事があったが、疲れたので辞めた

  来週訪ねてみよう

 

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