2024/04/08(月)_花粉症

 私は花粉症である。花粉なんかこの世からなくなればいい。

 もはや日常なので日記には書かなかった。が、春はひたすらに痒い。目も喉も痒い。春ってだけでキレそうになる。この感情はどこにぶつければよいのだろうか。

 しかし今朝の花粉はいつもの比でない。目覚めてすぐ、はっきりと花粉の存在を感じ取った。明らかにいつもより辛い。何なら目を開ける事すら困難なレベルだ。私は濡れたタオルで顔を覆いながら会社へと向かった。今日は街を歩く人も少ない。

「やあ、リン…おはよ…」

 会社ではアキニレも死にそうだった。笑顔が老けている。机に伏している様は私よりきつそうだ。

「おはようございまーすっ」

 一方のアセロラは通常営業。火属性の魔法使いは花粉症になりにくいって聞いた事がある。世界は実に不公平である。

「今日、花粉すごくないですか?」と私

「怪鳥ヘルフィーブがイント郊外に出現してるってさ」

 瀕死のアキニレに代わり。アセロラが答えた。

「怪鳥ヘルフィーブ…?」

 聞いたことないな。

「巨大な鳥の魔物だよ。翼を広げると五メートルとかになるんだって」とアセロラ。

 ひん死のアキニレから一冊の本を手渡された。分厚い魔物図鑑だ。アキニレの開いたページには黄緑色の大きな鳥が描かれている。翼に厚みがあって、若干もっさりした印象を受ける。ちょっとフクロウっぽいかも。それなりに可愛い。

 アセロラが説明のところを指さした。

「この魔物はリスや猫みたいな小動物を食べるんだけど、狩りの仕方が独特なんだよ」

「狩り?」

「樹から花粉を集めて、その花粉をばら撒くんだって。それで花粉症で弱った動物を捕まえるの。


 何だ、そのカスみたいな奴は。


少しでもこの魔物を「可愛い」と感じた自分をぶん殴りたい。

「花粉の影響範囲はこの魔物を中心に半径五キロだってさ」

 テロである。この都市には公共の福祉なんて言葉はなかった。あとアセロラもけろっと喋りやがって…。(八つ当たり)

「討伐隊が組まれてるから…今日中には…落ち着くはず…だけどな」

 途切れ途切れに話すアキニレ。私たちは今日、アキニレの仕事を手伝う予定だったけれど、本人が死にそうなので自習となった。かくいうアキニレはやらねばならない仕事が残っているそうだ。これが社会人か…。

 ヘルフィーブの出現中は閉めてしまう店も多い。アキニレは「今からでも有給使ってもいいよ」と言ってくれた。が、最早どこにいても花粉から逃れる術はないだろう。それにこのクソ魔物に有休をくれてやるのは絶対に嫌だ。

「あっ」とアセロラが声を出した。

「新入社員のランチュウって、大学で医療魔法を研究してたって聞いたよ。何か花粉対策を知っているかも」


 マジか!

 私の知らないところで同期達が親睦を深めている!


 が、今はそんな事はどうでもいい。ランチュウだ。奴ならこの地獄から脱する術を持っているかもしれないのだ。私とアキニレは開発ルームでランチュウを探し回った。しかしなかなか見つからない。ミラーに付き添って打合せにでも参加しているのだろうか。アキニレは先にミラーを捕まえた。

「ミラー…ちょっといいかい、ランチュウ…見てない?」

「あの軟弱者は有給だ」とミラー。

 クールビューティな彼女も鼻をずるずる言わせている。

「も、もしかして…花粉症が辛すぎて?」

「ああ…」


 医療魔法、花粉に敗れる。


私たちはがっかりしてアセロラの元に戻った。花粉を抑える術を人類は持っていないのだ。どれだけ国が栄えても、文化が発展したとしても超えられない壁。それが花粉なのだ。


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