2024/04/29(月)_決闘ごっこ

 あーあ、今日はやっちまった…。うじうじとした事を書こうと思う。

 今日も魔法陣の選定課題に取り組む。以下六種類の魔法陣から討伐会〝トライ・ブルー〟で貸し出す魔法陣を選ばなくてはならない。

 

【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】

【ウォータン・ボール_水球を放つ魔法】

【サンディア・ボール_雷球を放つ魔法】

【サンディア・ランス_雷槍を放つ魔法】

【アーズ・ランス_土槍を放つ魔法】

【ウィンディン・ナイフ_風刃を放つ魔法】

【ヴィルディイ_肉体強化の魔法】


 各魔法を理解する為、屋上で魔法陣を使用していたら、アセロラからとある提案をされた。


「〝決闘ごっこ〟やろうよ」


 ふむ、〝決闘ごっこ〟とは魔法使いの試合形式の一つである。お互い、自身を中心に半径一メートルの球状結界を張る。魔法で攻撃・防御をして、相手の結界を先に壊した方が勝者だ。この試合形式は学校の魔法授業でも用いられるし、男子の大好きな遊びでもある。


 実は私、決闘ごっこには少々自信があった。地元では同年代の男子どもに混ざって、負けなしだった。私が十四、五くらいの時か。強さの秘密は私の戦法にあった。

男子達は皆、次々に高火力で華のある魔法を覚える。そしてあれこれと戦術を弄る。〝炎の槍〟とか〝雷のパンチ〟とか…物語の主人公が使いそうなやつだ。私はそういったものには頼らない。基本的には投石強化の魔法と石器作成の魔法のみで戦う。他の魔法は駆け引きで少し使うくらいか。

 投石は地味に強い。炎や雷では止められない。(余程の使い手なら別だが)止める為には沢山の水や岩で物理的に阻むか、風で威力を落とすしかない。初心者同士の戦いは魔法に頼るよりも、魔法で強化した物理技の方が強いのだ。シンプルな魔法の方が魔力の消費も少ないし。

 よって同級生たちがどんなにカッコいい魔法を使っていても関係ない。それら全てを投石一本で破った。十五歳の時、私は男子どもから〝ノー・ロマン〟という二つ名を付けられていた。ロマンのない戦法で、次々勝利を重ねるためだ。絶妙にダサい。

「ノー・ロマンが今日の日直だ」とか

「数学の宿題はノー・ロマン宛に提出するように」とか

「ノー・ロマンの家で作った大根がうまい」とか

 会話の中に織り交ぜられると〝ノー・ロマン〟は致命的な臭さを発揮していた。だが強さ故に二つ名がつくという点はまんざらでもなかった。なので私も特に咎める事はなく、同年代の男子の間で〝ノー・ロマン〟は着実に浸透していった。


 まあ、そんな事はいい。アセロラは数メートル距離を取ると、くるりとこちらを向いた。

「せっかくだから今回の魔法陣を使って決闘ごっこやってみようよ」

「いいよ、じゃあ使っていい魔法は課題の六種類だけね」

 確かに実戦で分かる事は多い。いい提案かもしれない。私達は屋上で向き合った。お互いに簡易結界の魔法を唱える。


【バリア・スフィア_球体結界を張る魔法】


 試合開始だ。早速アセロラが魔導書を構える。


「ヴレア・ボールっ」


【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】だ。ヴレア・ボールは元々アセロラが得意とする魔法の一つ。 精度もスピードも申し分ない。 二発回避するも、最後の一発が結界に当たってしまう。結界に小さなヒビが入った! 私も負けてられない。入社してからアセロラの凄いところばかり見てきている気がする。私だってやる時はやるのだ。

 貸し出し用魔法陣から【ウォータン・ボール_水球を放つ魔法】を発動した。名前の通り、水球を打ち出す魔法だ。水は火に強い。アセロラと戦うにはもってこいだ。

 

 アセロラはこれを火球で相殺しようとする筈。

 

 その隙を付いて、さらに水球をたたき込む!


 「ウィンディン・ナイフ!」


 しかしアセロラが発動したのは【ウィンディン・ナイフ_風刃を放つ魔法】だった。水球が風刃によって切り裂かれる! 球状を維持できなくなった水は崩れるように空気中で霧散した。しかもアセロラは次々に風の刃を飛ばしてくる!

 

 この数はおかしい!

 

 最初から魔法を準備していないと無理だ。読まれていたのは私の方だった!

私の結界が崩れ、アセロラの勝ちで決着…。そ、そんな馬鹿な。アセロラはインドアだから実践では負けないと思ったのに…。

「わーい、私の勝ちィ!」

 喜ぶアセロラ。


 ち、違うもん! これが私の実力じゃないもん! 投石強化の魔法を使っていいなら絶対私が勝っていたもん! 私の中の全細胞が喚き出す。

「ま、まあ魔法の制限なしなら負けないと思うけど?」

 気が付くと私は三下の負け惜しみセリフを吐露していた。

「今負けたのにい?」

 煽ってくるアセロラ、くぅう…。

「そ、そりゃあ私、同学年の中では負けなしだったし。今回はちょっと魔法への理解が間に合わなかったっていうか…」

「えー、そうかなあ?」

「ほ、本当だよ! 私、古郷では強すぎて二つ名とかつけられてたしっ!」

「え、二つ名…?」

「あ、まあ…」

アセロラは口に手を当てて視線をこっちに向けた。ちょっとニヤついてます? しまった、自分の強さに根拠を示そうとした結果、言わんでいい事を言った気がする。耳が真っ赤になるのを感じた。そういえば同年代の女の子にこの話をするのは初めてかもしれない。

「二つ名ってどんなの?」

「…ノー・ロマン」

「え、なに?」

「ノー・ロマン…使う魔法を変えずに淡々と勝利を築くからロマンが無いって…」

 アセロラは腹がよじれるほど爆笑していた。笑い過ぎて自立出来ていない。お腹をかかえてヒイヒイ唸っている。私の顔は真っ赤に茹っていた。この愚か者は自分で自分の黒歴史を暴露したのだ。私は本当に頭が悪いと思う。穴があったら入りたい。


 その後アセロラから一日中、〝ノー・ロマン〟と呼ばれ続けた。

「ノー・ロマンちゃん、今日の夕飯どうする? ノー・ロマンさえよければノー・ロマンのお部屋でノー・ロマンの芋の炒め物が食べたいなあ」


 うああああああああああああああああああっ!


「う、うるさいっ」

 私は最早ぼそぼそと「うるさい」と「黙れ」しか言えなかった。アセロラは他の社員に言いふらしたりはしなかった。他人がいるところで〝ノー・ロマン〟と呼ぶ事もなかった。アセロラにわきまえがあった事、それだけが救いである。が、それはそれで情けをかけられてるようで癪だし…。何よりニヤニヤするアセロラがムカつく!!

 黒歴史が新たな黒歴史を生む。私史上に残る一日だったと感じている。

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