2024/04/25(木)_雨季の課題
新人五人組は会議室へと集められた。何だかんだ五人集まるのは久しぶりだ。ランチュウの髪はサイドを丁寧に切りそろえてある。数週間経てば乱れてくると思ったが、まだピシッとしている。まさか自分で切っているのだろうか。
ミラーが腕組みをして前に出た。
「今日、新人を呼んだのは雨季について話すためだ。イントは五月から六月にかけて降水確率が跳ね上がる。そしてこの時期、イントではとある催しが行われる」
私はちんぷんかんぷんである。一方イントが地元のアセロラ、スワンは既にピンと来ている様だ。
「魔物の討伐会〝トライ・ブルー〟だ。雨季になると水属性の魔物の発生率が上昇する。日頃、街中では殆ど魔物を見る事はない。が、この時期はスライムやアーヴァンク(ビーバーに似た魔物)が頻出するのだ。またそれに便乗する様にゴブリンの発生率も増える。大変癪な話だがな」
ミラーは腕を組んで続ける。スライムというワードが出た時、新人四人とアキニレがチラリとこっちを向いた。うるさいな! 確かにスライムは食べるけど、大好物って訳じゃない! 最近、会社内で「新入社員のスライムのやつ」として存在が知られ始めてる。私の社会人ライフがスライムに浸食されていく…!
「毎年イントでは地元の企業、団体が手を組んで低級魔物の討伐活動を行う。商店街の八百屋、魚屋といった商店や我々のような中小企業、地域の自治体などが参加する。無論ワークツリーも毎年参戦だ」とミラー。
「まあ討伐といっても危険は殆どないよ。相手をするのは知能の低いスライムくらいだから」
アキニレが捕捉した。
「毎年ワークツリーからは三年目までの新人が参加する事となっている」
なるほど、確かにうちの田舎でも似たような会はあった。次にミラーは私たちにプリントを配り始めた。
〝ワークツリー・戦闘用魔法陣のリスト〟
「なお今年からワークツリーでは魔法陣の貸出を行う」
「貸出?」
「ああ、ワークツリーの製品である、戦闘用魔法陣を各団体、企業に貸出す予定だ」
「は、はあ…」
「ではリン、何故この様な事をするか分かるか?」
突然の名指し!?
「え、いや、えっと…沢山魔物が倒せる様にとか…ですか?」
「製品の宣伝だ」
宣伝でしたか。六歳児のような回答しかできない自分に眩暈を覚える。
「三年前からワークツリーは戦闘用の魔法陣を取り扱ってはいる。まあ戦闘用と言っても、初心者が扱える護身程度のものだ。だがしかし、これらの製品はあまり宣伝できていないのが現状だ」
やや悔しそうにミラーは続けた。アキニレと比べるとミラーは会社愛みたいなものが強く見える。「そして君らにとって大事なのはここからだ」ミラーは顔を上げた。
「君たちには貸出す魔法陣を選んでほしい」
「え、私達がですか?」アセロラが目を丸くした。
「勿論君らの選択をそのまま採用するかは分からん。だが新人にとっても、様々な魔法に触れる良い機会となる筈だ。この機会にワークツリーの商品に触れてほしい」
ミラーはそう答えると、ピンと指を立てた。
「期限は七営業日後、五月六日の十五時から一人ずつプレゼンだ。なお他の業務を割り振られた者はそちらを優先する事」
え、一人ずつプレゼンするの? ミラーは大事なことをさらっと伝えると、淡々とした口調のまま説明を続ける。既に私の脳はパニックなのだが。
「一番良いプレゼンをした者にはアキニレが一週間昼食を奢る」とミラーは宣言した。
「え、ミラーは出してくれないの?」とアキニレ。
「私、昼食は一人で食べる主義だ」
「それ、答えになってるかい?」
ミラーはアキニレとの会話を断ち切ると、私たちの手元のプリントを指さした。
「ウチで取り扱っている製品のリストだ」
【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】
【ウォータン・ボール_水球を放つ魔法】
【サンディア・ボール_雷球を放つ魔法】
【サンディア・ランス_雷槍を放つ魔法】
【アーズ・ランス_土槍を放つ魔法】
【ウィンディン・ナイフ_風刃を放つ魔法】
【ヴィルディイ_肉体強化の魔法】
どれも初心者が最初に覚える戦闘用魔法だ。ミラー曰く「威力も弱めに調節してある」とのこと。また最後にアキニレが補足した。
「魔法陣の実物は資料室の魔導書にも格納してある。コピーは禁止だが、見る分には自由だからね。実際に使ってみたいなら、屋上でテストするといいよ」
新しい課題である。これは、なかなか難しい予感…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます