2024/04/24(水)_棚卸作業
本日は倉庫整理である。
正しくは備品の棚卸作業。倉庫の中の備品の数をチェックして増減を確認するそうだ。私達、新人五人は二階倉庫に集められた。アキニレともう一人の先輩もいる。年は私たちとあまり変わらないように見えた。
「今は二年目の子達が担当してるけど、来月からは一年目の君らにやって貰う」とアキニレ
そういえば二年目の先輩は殆ど見た事がなかった。
「今日は二年目のフックから作業を引き継いで貰おうと思う」
アキニレの隣、二年目社員のフックはペコリと頭を下げた。男性にしてはやや小柄である。目にかかるくらい前髪が長い。
「ど、どうも…フックです。そうですよね、皆さん新人さんですもんね。僕はまだ自分に後輩がいるって事が信じられなくて…。はは、何はともあれよろしく、お願いします…」
物静かでやや口下手な印象だった。
「ひ、一先ず資産の一覧をお渡しします。この一覧を元に資産がある事を確認して、見つかったものはチェックを入れて下さい。全ての資産が見つかれば作業完了です。」
一覧を見た。誰も使ってない予備魔導書が三十冊、魔導書用のペンが六本、魔法陣の枠が五十二つ、魔力測定用の水晶が二つか…。倉庫といっても学校の教室一つ分くらいの広さがあり、どこから手をつけたものか。
「あ、魔導書はここに並んでます」フックが指をさした。
本棚の端に、分厚い本が何冊も横に積み重ねてあった。魔導書は分厚いから、沢山あるとなかなかスペースを取る。
「あ、それぞれにシリアル番号のシールが貼ってあるので、一覧に記載された番号と照らし合わせてください」
私たちはシリアル番号を確認しては一覧にチェックを入れていく。本だけで三十冊、なかなか厄介な作業である。
あれ、全部見たけど三冊足りない。
「あの、三冊足りないみたいで…」
「ああ、そうですよね、そうなんです」
「えっと、残りの魔導書はどこに…」
「そこはまあ、よしなに」
YOSHINANI…!
よしなに…よしなにってなんだ?
よしなにの具体例が一ミリも浮かんでこないでやんす。これは「自分で考えろ」って事だろうか。いや、うーん…。恐る恐るフックに「あの。よしなにとは…どういう事でしょう?」と確認を取る。もし「自分で考えろ!」って言われたら速攻で考えることにしよう、はい。
「あ、すみません、説明不足でした。その三冊は社長室に格納されてるんです。でも社長室に行く訳にもいかないので、上長に確認してください。上長からオッケーだと言質が取れれば確認完了でいいです、はい」
そ、そういう事か。ならそれは後で確認しよう。そんなやり取りをしてる間にランチュウ達が魔法陣の枠とペンの確認を完了させていた。残りは水晶のみである。
「あ、水晶は丸いので、下の台座にシリアル番号を付けてあります」
え、どこだろう。
「水晶の下敷きなってるんじゃない?」とアセロラ。
私とアンプで水晶を持ち上げようとしたが、なかなか重い。
あ…
指を滑らせて水晶がごろりと地面を転がった。重々しい音が倉庫に響く。
「あ、落とさない様、気を付けてください。その水晶、割ったら何十万レムもするんで…」
ええ!? 今言う!?
あとそのローテンション、危険を伝えるタイプのやつではない!
私たちは慎重に水晶を持ち上げた。ところがだ、倉庫の窓から射す光が水晶を照らした時、私たちは気が付いた。水晶にまっすぐヒビが入っているではないか。
こんな事って…!
私とアンプ、アセロラは思わず息をのんだ。さっき転がした時だろうか。和やかだった雰囲気が一転、冷たく凍りついていた。一瞬、黙っていれば有耶無耶になるのでは? という考えが脳裏をよぎる。少なくとも我々の仕業であるという事はばれないかもしれない。だが、それでばれた場合の恐ろしさを考えると…。
私はフックに事の詳細を報告した。
フックは水晶を確認すると一言。
「あ、これは水晶じゃないですよ。ただのガラス玉です」
は?
「あ、本物はあっちの奥にあるやつです」
確かに倉庫の奥にもう二つ、水晶らしきものが格納してある。
「え、じゃあこれは何でしょうか?」と私
「あ、これは宴会の席で上長が占い師ごっこをした時の水晶もどきです。置く場所がないので、倉庫にしまってあるんですね、これ」
全身から力が抜け、ヘタヘタと座り込んでしまった。本気でビビった。
よく見ると業務と関係なさそうなものが次々見つかる。ゴブリンの置物やマスカレードな仮面、女性物の学生服などなど…え、なにこれ、会社の倉庫ってこういう感じなの? 特に最後の学生服が気になった。が、そっとしておくことにした。
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