2024/04/05(金)_魔法座学
本日は魔法についての座学。
ちなみに、私の洋服事情がヤバい。今日来ていたブラウスには、肩に特大のフリルが付いている。
これ、引きちぎりたい。
何度そう思ったことか。こんなに子供っぽく見えるとは。会社でも出鱈目に浮いているでやんす。もう破り捨ててしまいたい。しかしこのフリルが綺麗に取り外せる保障はどこにもない。服ごと破けたら目も当てられない。最悪の場合「子供服を着る新社会人」から「原始人」にランクアップしてしまう。はあ、どうしてこんな事に…。
実家からイントに移る際、出来る限りフォーマルなブラウス、スカートを持ってきたつもりだったのに。ちなみにアセロラは「可愛い」と言ってくれる。彼女ほどのお洒落さんならこの服を着こなす方法も見えているのかもしれないが。
さて、話がずれた。研修の話を書いていこうと思う。今日もメインでしゃべるのはアキニレである。ミラーは私たちの後ろで別の仕事をしながら、たまにこちらに意識を向けていた。
「皆の認識を合わせるためにも、出来る限り基本的な内容から見ていきたい」
アキニレ先生の有難いお言葉より、座学が始まる。
「まず、魔法使いは呪文を唱える事で魔法を使用する。ただし使用する度に体内の魔力を消費するから、複雑な魔法は多用できない。これが僕たち魔法使いのルールだね」
勿論そんな事は知っている。六歳児だって知っている。「魔法使いは体内の魔力を自在にアウトプットできる人間の事を指す」って、お婆ちゃんも言ってた。
「しかし非魔法使いでも魔法を使うことは出来る。それが道具(魔法陣)を使った場合だね。魔法陣を使うことで、誰でも体内の魔力を魔法に変換する事が出来る」
そう言うとアキニレは魔導書から一枚の魔法陣を取出した。紫色に輝いている。ソイツ、昨日見たな。【指先に静電気が溜まりやすくなる魔法】だ。
「この魔法陣があれば、誰でもこの【指先に静電気が溜まりやすくなる魔法】を使うことが出来る。凄い事だよね」
そのイタズラ魔法を例にとられると安易に頷けないが…まあ、凄い事である。新入生たちは各々「ま、まあ、はい」といった具合に頭を下げる。
「ところでリン、ちょっといいかな」
「は、はい?」
いきなりの名指し、声が裏返る。
「君は昨日この魔法を発動させる事が出来たよね」
「は、はい…」
「この魔法を使うための呪文を知っていたかい?」
「い、いえ…分からないです」
「うん、そうだよね。この魔法陣には、予め内部に呪文がプログラムされている。だから魔力を支払うだけで、誰でも【指先に静電気が溜まりやすくなる魔法】を使う事が出来る」
「な、なるほど…」
「よって魔法に詳しくない人でも魔法を使うことが出来るわけだ」
アキニレが「クローズ」と呟くと、紫色の魔法陣はアキニレの魔導書に戻った。アキニレがページをペラペラとめくる。百数ページに渡って様々な魔法陣が保存されているのが見えた。あれは全部アキニレが携わったものなのだろうか。アキニレはパタンと魔導書を閉じると、次のように続けた
「ここは覚えておいてほしいかな。僕らの仕事は魔法陣の内部に呪文をプログラムする事だ。現代では魔法使いだって沢山魔法陣を使うけど、うちの会社では非魔法使い向けの魔法陣を多く取り扱っている」
なるほど、メモメモ…。思い出したようにメモを開始する私。これまで全然メモを取っていなかったのは秘密である。
「そして最後に…」
アキニレが少し間を置いた。新人たちの視線が彼に集まる。
「魔法陣は凄い技術だが、怖い面もある。特に攻撃魔法の魔法陣は使用に制限があったり、資格が必要だったりする。だから君たちもそういう部分も頭の片隅に置いて仕事をしてくれると嬉しい」
大事な話である。私はアキニレの言葉を、出来る限りの、そのままメモした。
この仕事は私にとって第一志望ではない。私はそれを今でも少し引きずっている…。でも、それは一緒の働く仲間やお客様にとっては関係のない事だ。私はこの仕事を頑張っていこう。心の中でそう誓った。(ここまでメモをしていなかった事への罪悪感ではない)
一先ず学んだことをこの日記にも記載する。常識的な内容ではある。けれど言葉で定義する事はあまりない。新鮮な気持ちだった。
〈魔法とは〉
魔力を使い、超常的な現象を起こす技術。
魔法使いは呪文を唱えて使用。
非魔法使いは道具(魔法陣)を用いる。
※直接魔力をアウトプットできないため
〈魔力とは〉
全ての生物に宿るエネルギー。
蓄積できる量、質に個人差がある。
魔法を使う際に消費してしまう。(複雑な魔法ほど、消費量が多くなる)
休憩、ポーションの服用で回復。
大まかに五種類に分類できる(火・水・雷・風・土)
〈呪文とは〉
魔法の発動条件や、発動した際の効果を記したテキスト。
独自の文法で作られており、読み解くには相応の知識が必要。
超複雑な魔法は小説一冊分以上の呪文が必要になると言われている、らしい。
〈魔法陣とは〉
起動する事で、対象の魔法を発動する事が出来る。
魔法陣の内側には魔法に必要な呪文が記載されており、知識がなくとも魔法を使うことができる。
※呪文は普段は見えないよう、フィルターがかかっている
※開発者の権限がないと参照、編集は出来ない
魔法陣は便利だが、普通に魔法を使う場合と比較すると二倍以上の魔力を消費する
その後も基本的な魔法についての知識をおさらいした。今日はそんなに難しくなかったけど、こんなんで業務が出来るのだろうか。いや、学校の勉強も、ある瞬間から急激に難しくなったからなあ。
うう…また不安な気持ちになってきそうだ。だからこの辺にしたいと思う。
やっと一週間が終わった。長かった。とにかく新しい事づくめの一週間だった。新しい同期と先輩、会社、ビジネスマナー研修、魔導書、業務内容…。全部把握できているだろうか、いや出来ていない…。特にビジネスマナーがヤバい。研修前は「電話って面白そー、遠くの人の声が聞こえるって不思議~」くらいのイメージだった。しかし、いざ蓋を開けるとやるべきことが多い。相手の名前を聞いて、復唱して、要件を聞いて、それをメモして…。これを全部リアルタイムで行わなければならない。最早スポーツか何かだよね。出来るのか、要領の悪い私に…。
まあいい、だって今日は金曜日なのだから。
今日が金曜日という事は、明日は土曜日である。
土曜日という事は休日である!
「小難しい事は月曜日に考えよー」
私の脳はそのように出来ている。
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