2024/04/11(木)_研修開始

 

 新人五人は教育係のアキニレ、ミラーにワークツリーの二階、三階を案内された。二階は資料室と倉庫、フリースペース。三階は開発ルームである。それから屋上もあるそうだ。各フロアを出入りする際は、入り口に魔導書をかざす。するとドアの簡易結界が解除されて、自由にできり出来るそうだ。

 屋上はなかなか見晴らしがよかった。イントの繁華街の方まで見える。

 アキニレ曰く「屋上では比較的自由に魔法が使えるから、魔法陣のテストに使うことが多いかな。だから本格的に魔法を開発するときは、三階と屋上を行ったり来たりする事になるよ」との事。てっきりリフレッシュエリアかと思っていた。成程、そう言われればそうである。

 

 螺旋階段を下り三階の開発ルームへと移動した。螺旋階段を始めて見た。かっこいい。

 開発ルームは横に広い机(六人掛け)が六つほど並べられており、先輩方がそれぞれ作業していた。今は二十人くらいだろうか。机には魔導書が広げてあり、魔導書の上には青く光を放つ魔法陣が浮かび上がっていた。魔法陣の直径は六十センチ程。魔法を使う為の呪文がびっしりと書き記されている。魔法陣を作るとは、具体的には魔法陣の内側に呪文をプログラムしていく事を指す。

 難しそうである。

 今あれを作れと言われたら詰む。私には「物理的に走って逃げる」しか選択肢がない。

「席に決まりはないから。自由な席で作業していいからね」

 ちょっと図書館に近いシステムである。

「流行りのフリーアドレスってやつだ!」とアセロラが騒いでいた。自分で席を選べるのか、それはそれで気を使いそうだな…まあアセロラの横に座れるしヨシとしてやろう。

 私とアセロラはアキニレ横の二席を確保した。アキニレが咳払いをする。

「花粉の事があってゴタゴタしたけど、今週から本格的に研修を行ってこう。具体的には僕ら社員の手伝いをしたり、教育係の出した課題に取り組んでもらう」

 私達は二班に分けられた。私とアセロラのチームと男子三人衆のチームである。取り敢えずアセロラと一緒でホッとした。(あと教育係がミラーじゃなくて、少しホッとした)


★アキニレチーム★

教育係:アキニレ

新人 :アセロラ、私(リン)


★ミラーチーム★

教育係:ミラー

新人 :スワロー、アンプ、ランチュウ 

※男子三人衆の名前を把握した!やったね!


 暫くはこのチームで研修を行うらしい。なお教育係の二人は別プロジェクトにアサインされた上で、新人教育も行うそうだ。すごい。先輩たちは五年目だったはず。私もあと五年でこうなれるのだろうか。遠くで先輩方が開発している魔法陣が目に留まり、また不安になってきた。

 それを見たアキニレが「ああ、あれとか複雑な魔法陣だよね」と一言。

「ははは、凄いですよね…」

「大丈夫、いきなりあんなモノ作れとは言わないよ」

「あ、はい」


 よかった!!!


 安堵によって喜びの感情が込みあげてきた、が表には出さないようにした。「そっか、そうですよね、ちょっと残念だけど、今の私たちには難しいですよね…」という顔をした。

「それにシンプルな呪文でも、魔法陣にプログラムするにはそれなりの知識がいる」

「じゃあ私達は何をするんですか?」

 軽いノリでアセロラが質問する。

「いい質問だね。昨日、農家に打ち合わせに行っただろう?」

「魔法陣の改修業務の件ですね」と私。

 改修業務とは既にリリースした魔法陣をお客さんの要望に合わせてアップデートする業務を指す。えっへん。

「そうそう、打合せの結果、魔法の効果範囲を広げたり、対応肥料の種類を増やす事になったんだよ。その改修の中で簡単なところを手伝ってもらおうかな」

「は、はい!」

 勢いあまって「はい」と答えたものの、何をするのかは全く分からん。

 まあ頷かないのもそれはそれで変だし。

「俺が要件定義をまとめて、設計書を書く。設計書が書けたら実施に魔法陣を改修していくから、そこを手伝ってほしい」

「分かりました」


 何一つ分かっちゃいない!が、取り敢えず頷く。


「一先ず設計書が出来るまでは自習してもらおうかな。改修前の魔法陣を二人に連携するよ。内部の呪文や構造を分かる範囲で読み込んでみるといいよ」

 アキニレが自身の魔導書を撫でた。私達の前に一枚ずつ魔法陣が浮かび上がった。トパーズみたいな鮮やかなオレンジ色だ。オレンジだから土属性がベース魔法なのだろう。私たちはそれを自分の魔導書に保存した。

 いよいよ業務らしくなってきた、と言うべきだろうか。



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