2024/04/04(木)_社用魔導書の登録
魔導書が届いたそうだ。一人一冊ずつアキニレから配られる。それと社員番号を記したメモも。
魔導書の重さは一キロ程度だろうか。黒い表紙には金の縁飾りが付いている。一般的な魔導書のデザインだ。アキニレが魔導書を一冊、開いて見せた。
「僕らの仕事は魔法陣の作成だね。魔導書では魔法陣の編集や保存が出来るから、基本的にこの魔導書を用いて仕事を行っていく」
要するに私たちの商売道具である。
「それからこの魔導書は身分証明書としての機能もあって、会社のゲートを開くのに必要だからね。あと病院で診察を受けたり、空飛ぶ箒を購入する際にも提示事もある。あとは…勤怠や工数もこの魔導書に追記していくかな」
アキニレ突然ペラペラを喋るので慌ててメモを取った。恐らく聞き漏らしはない筈…もしあればアセロラに確認しよう。
要するにこの魔導書は失くしたらヤバいやつでやんす。
私の中のゴブリン的な何かがそう叫んでいた。
「まず魔導書のユーザ登録をするから一ページ目を開いてみて」とアキニレ。
そっとページに指を添わせた。上質な紙だ。ページを開くと本の上に文字が浮かび上がった。
〝ワークツリーへようこそ〟
〝これからユーザ登録を始めます〟
文字の下に入力フォームが浮かび上がる。
「じゃあ氏名と社員番号を入力してくれ」とアキニレ。
フォームのテキストボックスに氏名、社員番号を入力した。
「パスワードも自分で決めて入力するように。忘れると解除申請が面倒だから気をつけて」
パスワードか…私は絶対に忘れる。
その自信がある。神にも誓える。
だからパスワードは自分の誕生日にするのだ。出来る限り忘れにくく、簡単なものとする。セキュリティ的にはアウトだろう。だが自分の最大の敵は自分である。異論は認めない。しかしそう思った矢先、アキニレが以下のように続けた。
「あ、でも自分の誕生日とか簡単すぎるのは止めてほしいな。それからパスワードは三か月に一度変更する事になるから覚えておいてねー」
Oh…結局パスワードは「姉の誕生日+04(四月だから)」とした。うちの姉は自由っていうか、大雑把な人間だ。もしかしたら自分の誕生日も忘れているかもしれない。だから姉が自身の誕生日を周囲の人間にばら撒く可能性は低く、このパスワードは私の一族しか破る事の出来ない、強固なもののはずである。「私の一族しか破る事の出来ない」ってカッコいいではないか、フフフ。
次に魔導書に魔法陣が登録できる事を確認した。魔導書の主な機能は魔法陣の保存、編集である。
アキニレからテスト用の魔法陣を受け取って、自分の魔導書の白紙ページにかざす。すると魔法陣が消え、白紙だったページに魔法陣が焼き付けられた。魔法を齧っていれば、誰もが見たことのある光景である。
魔法陣を使用する際は対象のページに手で撫でる様にして、「ブート」と唱えるだけでいい。魔法陣が空中に浮かび上がる。後は念を送るかのように、魔力を払えば魔法を使用できる。
「ブート」
唱えると私の魔導書の上に一つの魔法陣が浮かび上がった。直径は三十センチ程で、紫色に輝いている。私は魔導書のページを再度覗き込んだ。先ほど魔法陣を焼き付けたページである。このページには魔法陣の情報があれこれ記載されているようだ。(まだ殆ど分からない)
「魔力を払って、魔法を使ってみてもいいよ」
そうアキニレが告げるので、試しに魔法を発動させてみた。
あ痛っ
指がバチッてなった。アキニレは何故か嬉しそうだ。
「それはねえ、【指先に静電気が溜まりやすくなる魔法】」
何だそれは。生活を一ミリも豊かにしない魔法だ。
「僕はイタズラ用の魔法陣を集めるのが趣味でねえ。昨年は同じように【ブーブークッションを生成する魔法】を新人にプレゼントしたのさ。セクハラで訴えられそうになったから、もう辞めたけど」
でしょうね。
だが、出会って数日の先輩にツッコミを入れる訳にもいかない。どうリアクションを取ったものか、動揺する新人たち。平然と話すアキニレ。マイペースな人だなーとは思っていたが、想定の三割増しでマイペースな先輩なようだ。
その後も諸々の登録作業が続いた。労働組合への登録とか、開発室、資料室の入室権限の付与とか。よく分からない書類を次々と手渡された。そして内容をイマイチ理解しないまま、サインを書いては提出する。薄らぼんやりしたやり取りが繰り返されていく。「大人の階段登ってるなあ」などと思ってみたりした。
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