2024/05/11(土)_セキュア・クロウ

 やっと発表会が終わったのだ、今日はのんびり過ごそうと思う。土曜日の朝、私はベッドの上でそう決意した。まだ十時だ、何ならもう一寝入り…

 そう思った矢先、ベッドの死角から突然女の子が現れた。

 

 うおおおおっ!

 

 心臓が止まりそうになった。ここは私の部屋だ。無論戸締りだってちゃんとしていたはず。しかし落ち着いてみるとその銀髪には見覚えがあった。振り向いた彼女と目が合う。冒険者の知り合い、フリュウポーチである。

「何で私の部屋にいるの!? てかどうやって入った?」

「何だ、知らなかったのか? 君の家の窓は外から三分くらいコンコンすると…金具がずれて鍵が開くぞ」


 ええ、そんなバカな。衝撃のカミングアウト、朝から顎が外れそうになる。


「いや、だとしても私の部屋だから。許可なく侵入したらダメだから!」

「君はそういう注文が多いな…」

「多くない! 普通!!」

 フリュウポーチ(長いからポーチでいいや)は「やれやれ」って感じで私のベッドに腰を下ろした。おい、馴れ馴れしいぞ、お前。しょうがないので私の方から要件を訪ねた。

「そんで今日は何しに来たの?」

 ポーチは辺りをキョロキョロと見まわしてから、ゴクリと唾を呑んで私に問いかけた。

「魔物の討伐に…興味はある?」


 ない。


 お婆ちゃんが冒険者だった。けど私的には「うわあ、お婆ちゃん大変そ~」フワァ(あくびの音)みたいな温度感である。第一休日にそんな事を言われましてもダルイし、眠い。

「冒険者として受けたい依頼がある…だが二人じゃないといけない依頼なんだ」

「冒険者の仕事を手伝って欲しいって事?」

「ああ、そうだ…」

「そんな、突然無理だと思うけど」

「難易度的には簡単なのだが、必ず二人じゃないと受けられない依頼なんだ」

「なにそれ? 首が二つあるドラゴンを倒すとか?」

「それなら私一人でも大丈夫だ」

 大丈夫なんだ…

「じゃあ、どんなの?」

「セキュア・クロウの討伐だ」

「セキュア・クロウ?」

「身長二メートル、翼を開くと幅四メートルにもなるカラスの魔物だ…。魔物としてのランクはCランク。コイツは頭がよくて…警戒心が強い」

「はあ」

「だから武器を持った人間には決して近づかない…丸腰の人間を襲う習性がある」

「そりゃあ怖いな」

 私は適当に相槌を打った。

「だから討伐する時は一人が囮になって…もう一人が討伐する」

「え、私に囮になれって言ってる?」

「話が早くて…助かるな」

「ち、ちなみに魔法じゃ倒せないの? それなら武器なしでも戦えるじゃん」

「それはダメだ。奴らは魔力感知にも長けている。少しでも魔法を使う素振りを見せれば逃げてしまう。君は完全に丸腰で逃げ回って欲しい」

 〝君は〟って私はやらんよ!

「い、いや囮はちょっと…普通に怖いし」

「この仕事、とても報酬がいいんだ…」

「話を聞け!」

「大丈夫だ。私が必ず守る」とポーチ。

 突然のイケメン台詞。そういえばこの女、顔が良かったな。同性なのに思わずクラッとしてしまった。よりによってポーチに…不覚である。だがそれでも怖いものは怖い。お婆ちゃんからも知らない魔物は侮るなって口を酸っぱくして言われているし…。

「ねえ、ちなみにそんなに報酬がいいの?」

「ああ、依頼主はとある貴族だ。セキュア・クロウに家宝のペンダントを飲み込まれた…らしい」

 Cランクの魔物なら討伐報酬は数千レムか、高くても五万レムくらいだった筈。最近新しい靴を新調したいなあ、なんて思ったりもしてた。もし五万レムをゲットできるなら…二人で割っても靴の購入費に届くかもしれない。そんな風に思わないこともない…。

「これが報酬額だ」

 そう言ってポーチは依頼書を広げた。差し出された依頼書に目を通す。

「と、討伐報酬、二十万レム!?」

 私は目をひん剥いて叫んだ。

 だって私の月給が十九万レムなんだが!?

 私はすぐにポーチの手を取った。こうしてセキュア・クロウの討伐チームが結成された。私の食いつきに若干ポーチが引いていたことが非常に気に入らなかったが。

 

 

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新卒の魔法使い(私)が、魔法陣制作会社に勤めるだけの日記 @jun_katsuyama

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