2024/05/07(火)_珈琲

 本日も魔法陣の選定課題。雨季の討伐会〝トライ・ブルー〟で各団体に貸出す魔法陣を選ぶのだ。最近、毎回この文章を書いている気がする。このループ感が社会人だろうか。

 やっとこさ一通りの資料が集まった。今日からは提案内容の考察+発表資料作成である。ランチュウも「協力はここまでだ」ってさ。わざわざ言うところがランチュウである。まあ三人のプレゼンが被るのはよろしくない。仕方ないか。私は三人分の資料を抱えて、開発室に移動した。空いてる席を見つけて作業を開始する。

 

 どの魔法を貸し出すのがいいだろうか?

 

 【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】

 【ウォータン・ボール_水球を放つ魔法】

 【サンディア・ボール_雷球を放つ魔法】

 【サンディア・ランス_雷槍を放つ魔法】

 【アーズ・ランス_土槍を放つ魔法】

 【ウィンディン・ナイフ_風刃を放つ魔法】

 【ヴィルディイ_肉体強化の魔法】

 

 討伐会で他の団体に貸し出す魔法だ。敵はスライムなどの水属性の魔物。ならば本命は雷属性の魔法だ。

 

 【サンディア・ボール_雷球を放つ魔法】

 【サンディア・ランス_雷槍を放つ魔法】


 水属性の魔物には雷属性の魔法が好相性。だからアピールにはピッタリである。年頃男子の心をくすぐるカッコいい外観もいい感じ。

 だが懸念点が一つ。 私が土属性のように、生き物はそれぞれ得意な属性を持っている。私は土属性だから、土属性以外の魔法は発動できるけど精度はイマイチ。連発も出来ない。

 だから雷属性の魔法も雷属性の人が使わないと十分な力を発揮できない。しかし雷属性の人間はレアなのだ。確かトラン人の中で雷属性は五パーセントしかいない。だから雷魔法を貸し出しても、魔法の力を百パーセント引き出せる人が少ないのだ。

 

 ともすると雷以外の魔法も貸し出した方がいいか…。

 

 雷と他の属性の魔法の二種類を貸し出すかあ? パッとした回答が見つからないまま、時間だけが流れていく。

 お昼過ぎ、ランチュウが私の机まで来た。


 何の用だ?

 

 まさかまた私の資料に不備でも見つかったか? 内心身構えていると、彼は手に持っていた珈琲のカップを私の机に置いた。

「え、くれるの?」

 ランチュウはそれに答えず、そっぽを向いた。

「人は強くあるべきだと思う」

「え、何の話?」

「だが強さにも色々あるらしい。僕はゴブリンが現れた時、すぐに動けなかった」

 あ、ああ、その事か。

 ランチュウは私たちが会場調査を行った際のゴブリンと遭遇したことを気にかけていたようだ。あの時は私がゴブリンを蹴り上げ、そのまま三人で逃げた。「一匹ゴブリンがいれば十匹はいると思え」これは常識である。

「だが君は違った。ゴブリンを攻撃する君からは、純粋な殺気を感じた」


 いや殺気ではないのだが。逃げたし。


 てか殺気って言い方、やめましょうや。だがランチュウはそこに痛く感心したようで「あれはいい殺気だった」と何度もうなづいていた。スライムに引き続き、またよからぬキャラ付けが増える。

「ほら、先輩方も見てるから!」

「そうか」

「うん、あと殺気じゃないし!」

「ああ、それと珈琲カップは会社のものだから給湯室に戻してくれ」

 ランチュウはそれだけ言うと自分の机に戻っていった。机に置かれた珈琲はまだ湯気が立っている。これは彼なりの感謝の気持ちだろうか。それとも「これで貸し借りはナシだ!」って事だろうか。まあいずれにしても受け取っておこうとは思った。「殺気」については改めて誤解を解く必要がありそうではあるが。

 


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