第三十六話 生きていく

「...ルー...」


「ねぇ、ルージュ、起きて」


「...」


なんだ?記憶があやふやだ。


「おはよう。今日は何を教えてくれるの」


「今日は...」


ああ、そうか。


俺はこいつの友達になったんだっけ。


...魔族への差別意識は旧時代的な考え方だ。メイドも料理人も番兵も、怯えすぎだ。


ルージュ家の跡をつぐ者として、コイツとは最高の友情を築いて見せよう。


「おはよう。ほら」


布団から飛び起き、手を伸ばす。


「ハグしよう」


「はぐ?」


「あぁ、もしかして、わからないのかな」


こちらから走りよって、軽く肩を叩く。


「挨拶だ。できれば最初会ったときにしたかったとこだけど、実のところ君と触れるのが怖くてね。いつもパパとママがしてくれるんだ」


目の前の魔族...オリオンは、驚いて面食らっている。


「おっと、すまない。いきなりはまずかったかな。それとも、キミ達の文化圏だと挨拶のハグはなかったりする?」


「...いや、僕のところにもあるんだとは、思う」


「思う?それって、どういうことだい」


「僕の両親は戦死した。おじいちゃんも、ほとんど構ってくれなかったから、こういうのは初めて、かも」


「成る程...戦死か」


大切な存在を失うのは、魔族も同じ。人を襲う外付けの本能が有りそれを薬で抑えると言う、にわかに信じがたい話が本当なのであれば...彼らと我々の間には、何の差異もない筈だ。


「すまないね。あまり言いたくなかったろうに」


「ううん。それよりさ、これから毎朝こうしてよ」


綺麗な目をしている。


自分で言うのもなんだが、俺はここで沢山の教育を受けている分少々大人っぽいのかもしれない。年相応の同い年というのは、きっとこういう感じなのだろう。


「もちろんだ。これからよろしく」




------




「フレア。フレア」


あれ...なんか...時間がとんだ...


「なんだよもう...」


まあいっか。いつもの朝だから。


「おはよっ!!今日もいい朝だよ!!」


抱きついてきたオリオンが、ぐりぐりと頬を押し付け...いや、痛い痛い!


「鱗が擦れるからそれやめろって言ったろ?」


「あっ、ごめん。フレアの肌ってさ、ツルツルで面白いよね~」


魔族にはゴツゴツとかモフモフとか色々居るし、確かに珍しいかもしれないが。


「跡付いたじゃねーかよ」


「まあまあ!それより、今日はどんなことを教えてくれるの?」


「懲りないなぁ。お前もう、俺より賢いんじゃねえの?本なら、書庫にいくらでもあるしそこで...」


「ん?違うよフレア。」


「何がどう違うんだよ」


「君に聞くのが楽しいの」




------




「やっ、おはようフレア」


わきまえた距離感のハグが、やってくる。


「今日はどんなことを教えてくれるの」


「うーん、そうだなぁ...そうだ」


ルーハも紅葉に染まる頃だ。


庭の植樹も、綺麗なオレンジ色。


「あと半年したら、俺達中等学校に行ける」


「ああ!ヴァルドボルグ様が開設した学校のことだよね。でもあそこ、かなり入学するの難しいらしいし、行けるかな...」


「大丈夫さ。俺達なら一発だよ。ってか良い機会だし、勉強しようぜ?二人で、受かるために」


「おぉー、それいい!行こうよ、書庫に!」


「おおう。あ、あのぉさ、俺...」


「どした?」


「ちょっと、トイレ行きたいかも」




------




「うぅ...」


ここは。


手...


魔力による拘束...


「!!」


あぁ、寝起き特有のぼんやりした感覚が取り去られる。


「そうか。俺はアイツらに捕まって...」


...尿意があるのに、クソッ、腹立つ!!


「おおーや。お困りかな?人質君」


アイツは。


「俺のことコケにしやがった狼...」


「我狼だよ、覚えときな。それで?なーんか空中に縛られたままもじもじしてるけどどーかしたの?」


「...見りゃわかんだろうが!どうせただの人質なんだからトイレくらい行かせろ!」


「あっ、そぉ。んじゃ、僕が飲んであげようか」


「気持ち悪い冗談はよせ!お前だって、ここの床が汚れたら、お前を操ってる奴に叱られるんじゃないの?お人形さん」


「おや。エルドラ様はその程度でお怒りになったりはしないよ。君こそ、強がるのをやめたら?どれだけ君が悲惨な状態に陥ろうと、生きてさえいればいいんだよ。人質とはそういうもんだぜ」


する。


下の服を、全て脱がされる。


「てめぇ、やめ...」


亀頭の先端が、喉の奥の粘膜に当たるほど深く咥えられる。


「飲んであげるよ。それともなにかな?漏らしたいのかい」


「んっ...んぅ」


よほど、長い間寝ていたようだ。


吊り下げられた股間から、滝のように尿が溢れる。


「...はぁー。まず」


屈辱と恐怖で、声がつまりそうになる。だが、少しでも強がりを見せねば。


「おい、おま...舐めるな」


「残りが垂れて濡れたら下着が汚れるだろう。親切心だ」


「貴様、どこまで俺を愚弄すれば気が済む!」


ニヤ。目の前の魔族は笑って、今度は嘲笑うような表情でオレの局部を舐め回す。


「やめろ...っ」


「言っただろ。人質ってのはそういうものだって。ねぇ、知っているかい」


「...何を...」


「ヴァルドボルグの精液に特殊な力が宿ってたってのは有名な話。でもそれって本当なのかな?精液が持つ役割ってのは、生殖だけ。又聞きしただけじゃあ、信じがたい話だよね」


しゃぶるだけしゃぶって、奴はこちらの股間から口を離す。


「それを、僕のご主人含め手に入れようと躍起になっていた人は多い。下らないよね」


ピッ。


「うぐぅっ...!」


そいつが指を上げると、下着とズボンが急に上がって玉に引っ掛かる。


「いっ...てぇなコイツ!気ィつかえよ、分かるだろ!」


「わかるからだよ人質君。じゃ、トイレにいきたくなったらまた呼んでくれ」


「おい、待て...待て!!」


クソ。人を良いように...


しかし、嘆いたところで仕方がない。状況を整理せねば。


...この空間、一辺が四メートルもない。


なんとも殺風景な部屋だ。窓もない。


そりゃ、人質に外の情報なんざ与えないか。


しかし、俺が人質にとられた理由はなんだ?やつらは今、何をしている?


「何も...わからない」


今は助けを待つしか方法はないか。


















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