第六話 激突
「動くな!"
重装備の魔族たちが、杖をかまえ生徒に向ける。その数、食堂の中にいるだけでもざっと100人ほど。
「
ルージュが手に杖を召喚しながら、周囲を嘗めるように見渡す。全員、結界のなかで身をよせあいながら、自然と互いの死角をカバーする体制に移行している。
「あぁ...噂には聞いたことがあるぜ。なんでも、魔族の自由解放を目的とする組織らしい。かつての魔王城を拠点に静かに活動を続けているということらしいが、まさかルーハにまであらわれるなんて」
小声でそう呟いて、結界内に伝達する。
「ふーん。中々とんでもねぇな、魔族ってのは」
「...ルージュ。嫌味なんて言っている場合か?ここは協力して生き残るのが先決だ」
残念だが、今はこのホワイトとか言うヤツが正しいな。
「ちっ、仕方ない。じゃあ作戦考えるぞ」
「でも、これほどの包囲網、どうやって?」
ファニーが攻撃で傷付いた結界を修復しながら、背中越しに聞いてくる。
「...ま、先生方が何とかしてくれるまで待てば良いんじゃねえの」
「無難な判断だな」
食堂内の生徒が怯えたり、怪我による傷口を抑えて泣く中、杖をかまえた竜魔族がこちらに接近してくる。
「おい、そこの四人。今すぐ防護結界を解除しろ。さもなくばここで殺す」
「...おいおい待てよ。俺たちは人質だろ?だった動けない俺たちが防護結界を貼っていたって関係ないだろ」
赤髪が、挑発する。気持ちは判るが、それは愚作なんじゃないのか?鎧を着込んだ紫の鱗を持つ竜魔族はフッ、と笑い表情を崩したが、すぐにまた睨み付ける。
「俺たちが潜入する前に防護結界を展開したのは、お前たちだけ。何をやらかすかわからん人質は、すぐにでも殺せるようにしとかないとならない。そうは思わないか?」
「...」
なるほど。三人が、こちらをチラチラ見てくる。全ては俺の判断ひとつか。
「...解除するか」
シャボン玉状の『防護結界』の解除により、全員の体が晒される。
「んん?...おお。お前、竜魔族の生徒か」
「なんだ、てめぇ」
紫鱗はこちらに手を伸ばし、それから、肩に手をおいてきた。
「大変だったな。ここから、救いだしてやるからな」
「俺は生まれも育ちもルーハなんだよ。寒いだけのウィントに用はねぇ」
挑発されて苛立つのか、そう思った。だがむしろ相手は、憐れみの目を向けてくる。
「そう言うな。お前もいつか、"自然"に戻してやるからな」
「...自然、だと」
なるほど。そういう思想の団体なのか。
「そうさ。そこの人間と狼人共から離れ、再び魔族が支配する世界のため歩もうではないか」
「...断る。俺の居場所はここだ」
「リング」
ファニーが嬉しそうに笑う。ま、それが事実だし。
「...何のためにこんなことをする?こんなことをしたって、魔族の立ち位置が今以上に危うくなるだけでしょ」
「そう思っている臆病者のせいで魔族の地位が上がらんのだ。正しき革命をもたらすものは、必ず嗤われるもの」
ルージュと、反逆魔族のメンバーが睨みあう。この状況でも、両者は笑っていた。
「笑わせる。痛め付けてやっても良いのだが」
「やってみろよ。俺はここじゃ一番の魔法の使い手だ」
「...よせ」
ホワイトが、ルージュを引き留めようと手を伸ばす。だが、束の間。
「うがぁっ......!!!」
ルージュの右肩が一瞬にして切断され、手に持っていた杖が弾き飛ばされる。
切断面から血が吹き出し、ホワイトは咄嗟に肩を抑えた。
「無詠唱の高速切断魔法...何て奴等だ」
「ほう...なるほど」
半分切れてしまった腕を、ホワイトが必死に抑えている。それを見た反逆魔族の紫竜は、必死に睨み付けてくるホワイトの顔を見て、したなめずりをした。
「そういう小細工か。『近未来予測』ねぇ」
「"このままじゃ、ルージュの腕が外れる"。そう読んだな」
「...ぅあああああ!!!」
「待ってて、そのままにしてて」
「ファニー、あまり目だったことを!!」
「『高等回復術(アドバンスドヒール)』」
切断目を緑の光が包み、接着。
「ファニー...」
魔族の視線が、ファニーに。まずい。
「へぇ。その狼、良い能力持ってんだな」
「がっ...」
やべぇ、奴め首を!
「ファニー!!やめろっ...離せ!!」
「おっとぉ。お友だちか?なら教えてやるよ」
「くそっ...貴様、離せ!!」
「魔族とは元々、人に仇為す者。ましてや、その下位種である狼人とつるむなどもっての他だ。死別を持って目覚めさせてやる」
「あっ...リン...グ...」
「てめぇ、このっ...」
「お前は黙ってみていろ」
「ああっ!!...がぁつ...」
切られた!コイツ、俺の手足を...ダメだ。ファニーの息が。...途絶えちまう...守らなきゃ...
「はは。いい君だ、下等生物共。そして、高貴なる魔竜。お前の将来のため偽りの友を奪うことを、今は許せ」
「ファニー...ファニー!!」
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