第五話 食事の時間
「...」
ガヤガヤと騒がしい食堂の室内。唯一あいていた四人掛けのテーブルに、竜人、狼人、そして二人の人間が着座する。
「まぁそう固い顔すんなって。な?」
「席があいていなかったのが悔やまれるぜ。なぁ?ファニー」
「んー、たまには悪くないんじゃない?ほら、食べようよ」
「流石は優等生様、そっちの竜とは違って対応がお利口だ」
畜生、ぶっ殺してやる!と、こちらが思ったことを察したのか、ファニーがこちらの肩を強めにつかんで、ふるふると首を振ったので、机の下で拳を握りしめておくだけに留めておく。
「さ、食べようぜファニー君。あとそれから、魔竜くん」
「リングだ。人の名前は覚えといたほうがいいぜ」
「おや失礼、覚えるほどのことでもないと思ってね」
「そういうお前たちは、何故わざわざ俺たちを誘ったりなんかした?気味が悪いんだよ。えーっと...名前」
そういって俺が赤髪の人間の方を指差すと、やれやれと大袈裟に手を振り、自己紹介が始まった。
「ルージュだ。フレア・ルージュ。一年のB組。で、...ほら」
赤髪が、さっきから黙っている白髪の方の肩をつつく。すると俯いてハンバーガーを食べていたその男は顔をあげると、
「...アイシー・ホワイト。」
とだけ呟く。
「ハンバーガーに夢中か?まあいい。長話もなんだし、用事を単刀直入に言おう。あのな、春休み明けに四人パーティーでの試験があるってのは知ってるかい」
「ん?あぁ?知らねえよ」
「えっ、リング知らないの?四人パーティーでのサーマ攻略試験。教員の監督のもと、指定された課題をこなす。この学校の一年目試験じゃ最難関って言われてる奴ね。必修じゃないけど」
「ふーん。で、それと俺たちがどう関係あるんだ?」
すると、ハンバーガーを淡々と食べていたアイシーが目線を上げ、ファニーをスッ、と指差して言う。
「...わかんないかな。...そいつを勧誘しに来たんだよ」
「ん?あぁ...あぁーなるほどな」
そりゃ、ファニーは回復最強だしな。すると、ルージュが男にしちゃやや長めの赤髪をくるくると弄りながらフッ、と笑う。
「リングだっけ?君に関してはどうでもよかったんだけど、君たちいつも二人でいるし、誘い辛かったんだよね。僕たち二人は魔法による攻撃が主体だから、回復役職が欲しかったんだよ。サーマ攻略は学園側の補助付きとはいえ困難なミッションだからね」
ま、凡庸な俺は誘う価値なしか。困ったものだな。
「だとよ。どうするんだ?ファニー」
「...悪いけど断らせてもらう。もとから僕はリングと組む気だったし」
「へぇ。でも、それってもったいなくないか?」
「なんでさ」
「君はこの学園の回復役職のトップだろう?折角選りすぐりの能力があるのに、ソイツと組んでいたら成績が落ちかねない」
ファニーがちらりとこちらを見る。
...なんだか、凄く哀れな気持ちになる。
「戦いは個々の強さだけでなくコンビネーションが重要だ。タッグの理解者としてリング以上の存在は居ないよ」
その言葉は、全てが間違いのない本音に聞こえた。それだけに、俺が足を引っ張っているのが辛く思えてくる。
「お前、村からお金出してもらってここに来てるんだろ?万が一にも成績、落とせないだろ」
「...」
コイツ、俺でも触れないような他人のプライベートにズケズケと!
「おい、赤いの」
「ルージュだ」
「いくらなんでも分別無さすぎだろ。人を勧誘するなら処世術くらいわきまえとけ」
「おやおや。自分をよいしょしてくれるパートナーをとられかけて不満かな?君こそ、そんな怖い目で人を睨み付けない方がいいよ。魔族が人に手出ししたら...どんな処罰が待っていることやら」
「なんだとぉ!?」
「「...まあまあ」」
ファニーが俺を、白髪野郎が赤髪を、それぞれ取り押さえる。
「...君も大概だよルージュ。...それより、ここからはやく逃げない?」
「ん?...おいホワイト、何か『視えた』のか」
「...おいそこの竜。防御魔法を全開にしろ」
「おい、何言って」
「従え、魔竜!ホワイトの『近未来予測(ビジョン)』はホンモノだ」
なんだぁ?意味がわからねぇ。だがコイツの目、さっきまでの冗談半分軽蔑半分のふざけた目じゃねえ。
「わかったよ。『防護結界(ディフェンスフィールド)』」
と、次の瞬間。
「動くな、学生ども!!!」
「キャアアアアアアア!!!」
なんだ!?
あちこちで、ガラスが割れたり、逃げ惑う生徒の声。結界の中、ルージュが叫ぶ。
「言っただろ!ホワイトの予知はホンモノだって。なぁ、ホワイト。次はどうすれいい」
ホワイトが、空中に出現させた、白濁した水晶を見つめて、そして、先程まで落ちていた瞼を全開する。
「...はぁ。まずいね。このままじゃ僕ら、死んじゃうよ」
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