第四話 おはようの朝
「...」
隣のロウは裸だ。いつぶりだったかな。こんな夜は。
「...」
余韻が欲しくて、まだ布団から離れられない。
「...時間がない。もう行くよ」
キスをする。この幸せは、ずっと守りたい。あれから長い時間が流れたが、俺たちの肉体は変わらない。
「絶対に俺たちが生きてる間に、実現しような」
疲れからか、ロウはまだ寝ている。
「んん...まって」
いや、前言撤回。起きてる。
「もう行くの?」
「ああ」
「そうか...淋しい」
上半身だけを起こした俺を引き留めるように、こちらの左手を握る。思わず、こちらもまだ続けたいと、口にしたくなってしまう。
「俺も淋しい。けど、行かなくちゃ」
「今日は何処に?」
「北部闘争の仲裁。あと、学校に顔を出す。しばらく会えない」
「そっか。ま、僕も僕で忙しいし。次はいつ会えるかなぁ」
「一週間くらい、経てばかな」
「淋しいねぇ」
「だね。北部って言うと、例のあの」
「そう。魔王城に籠ってる奴等の」
「ま、心配はしてないけど、ケガしないで帰ってきてね」
「当然。この15年、俺はケガしてないし」
「それはフラグってやつじゃない?ともかく」
ベッドから出て服を着ていたところを、後ろから抱き締められる。
「...じゃーま」
「そうでもないでしょ?あと少しだけ一緒にいて」
「わかったよ。ん?ちょっと待て」
玄関が、ノックされる。
「客か。急いで出る」
未だに全裸のロウのかわりに急いで正装を着込み、木製のドアを押して開ける。キーアの外の空気はまだ冷たく、薄着の肌に刺すように吹き付ける。
「いらっしゃい。どなたですか」
外にたっていたのは、人間の女性。白衣を纏っていて、銀色の長髪。
「相変わらず仲が良さそうで何よりだ。」
まさか。いや、そんなはずはない。だって。
「は...イヴ?!??お前、死んだんじゃなかったのか!!」
「なんだ?もっと嬉しそうな顔をしてくれてもいいじゃないか。この世界の知人と言ったら、君たちくらいなものだからな」
気分を害して顔を歪めたのが、バレてしまったらしい。ここ15年で、その辺は鍛えたハズだったんだがな。
「来るなら事前に言え。俺もロウも忙しいんだ、ってかなんでこの家を知ってる?あと顔についてた機械のパーツはどうした?」
「来訪してすぐ質問攻めとは、私も随分人気者だな」
フッ、と息を吐いて、大袈裟に首を振る。面白いとでも思っているのだろうか。
「笑えない冗談だな。反吐が出るよ、お前を見ると」
「だろうな。入っていいか?お連れさんは今大丈夫かな」
「あー...いや、ロウは」
裸なんだよ。察しろよ!!そう言うことも出来ずただ佇んでいると、
「大丈夫ですよ。しかしまた、何故この世界に?」
当の本人が何の恥ずかしげもなく、後ろから抱きついてきた。まぁ、別にいいか。イヴだし。
「お前、流石にもうちょっとなんか着たらどーなんだ」
下着に、丈の長い室内着を一枚羽織っただけの軽装。ロウはもともと毛深いから寒くはないのだろうが、色々と心配になる。
「いーのいーの。なんでここに来たのか気になるし、今日は僕、久々に暇だから色々と話を聞いてみようかなと思って」
「そうか。ならば、お邪魔させて貰ってもいいかな?君たちを探すのに3日はかかってしまってね、お腹がペコペコなんだよ」
「あいかわらず厄介事をなんの遠慮もなく持ち込む奴だな。...はあ、仕方ねぇ、入れ。10分だけ付き合ってやる」
「では失礼して」
あーあ。ひでぇ話だぜ、本当に。本当だったらこの後ギリギリまで二人で居れたのに...そんな事を思いながら、イヴを中へと招き入れる。
「何の用事だ?さっさと言え」
「用事もなにも。この世界の事が気になるのは、当然のことだろう?あっちでの事が色々と片付いたから、3年ぶりにこっちに来たって訳さ。君たち、見た目は変わらないけど色々と変化はあったみたいだね」
「3年?こっちでは15年経ってるぞ」
「ああ、そうか。時間の流れが違うのか...なるほど、これは興味深いね」
「で?結局何のためにここに来た?」
「そりゃあ、こっちの調査にだよ。この世界はまだ未開拓で気になる点も多い、科学者としての血が騒ぐ!と、言いたいところだったんだけどね」
あの一件を全く反省していなさそうなキラキラした瞳で語るイヴをぶん殴りかけたが、最後の一言で留まる。
「ほう?」
「私がこの世界に起こした干渉のこと、向こうでこっぴどく叱られてね。だから方針を決められた。この世界で起きることには、極力干渉せず、自然に文明が進んでいくのを見届けろ、と」
「お前一人のせいで自然もクソも無くなったたってのによく言うぜ。んで?いつまで滞在する?」
「目立たず騒がず、3日ほどかな。大丈夫さ、現地住民にはバレないよう努力するし、もちろん、大抵の相手には勝てる」
「別にお前の心配はしてねぇよ。心配なのはお前の行動、それから人格だ。俺の首をチョンパしたこと、忘れてねぇからな」
すると、イヴが突如立ち上がり、こちらに深々と頭を下げる。
「その、...その節は、すまなかった。本当に、君にしたことは...」
「あーあーあー。そういうの、調子狂うからやめろ。前にもいったろ?お前は最低のクズだって。でもな」
指先で、視線をあげるよう促す。
「最低なクズのアンタだからこそ、俺を産み出せた。それでおあいこ。あの時の言葉が、俺の気持ちのすべてだ」
「ヴァルドボルグ...」
「そんな救われたような顔すんなよ、情緒不安定が。逆に言えばアンタに言いたいことなんてそのくらいだ。用事が終わったらサッサと帰れ、こう見えても俺様は貴重なロウとの時間を潰されて不機嫌なんだよ」
「そうか。いや、すまないね。私も、そういう時間があったからわかるよ。では、私はこれで」
座っていた椅子から、イヴが立ち上がろうとする。それを見たロウが、背を向ける前に手と声で引き留めた。
「待って。こっちからも色々と聞きたいことがあるから。やっぱり、ここにとどまっていてもらえないかな?魔法形態の研究は、僕の中で一番やりたいことなんだ。折角君がここに来るなら、色々と教えてもらいたくて」
「そうか。...さっきも言った通りこっちへの干渉は限度がある。そう、ペラペラとはしゃべれないぞ」
「もちろん、その辺も考慮するさ。...あっ」
「ん?どうした」
「魔力磁石が。上手く、光らない」
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