第十七話 刹那の連携

「これはいったいどういう事だ?魔族」


上から目線で睨まれているが、今は喧嘩している場合ではない。


「俺はリングだ、兵士のおっさん!いいか、その白い髪の...」


「ホワイトだ」


「そう!ホワイトは近い未来を読めるんだ!それを利用して攻撃を防いだ。あとはやってくれるよな?ジーモの精鋭のみなさん」


俺のことを関門に意地でも通さなかったおっさんとその他兵士たちは目を合わせ、頷く。それからこちらを向いて、やれや

首を振った。


「...なるほど。今はやるしかないようだな」


この状況。俺がここにリベリオンを呼び寄せ、疑われるのを避けるためあらかじめ防御を張ったと見られてもおかしくない。


いや、実際そう思われているだろうが、ジーモの衛兵として今取るべき手は一つしかないはずだ。


「このクレハ一等兵、何人たりともここには近づけさせん」


へぇ。このゴツイおっさん、クレハって言ったのか。


「頼んだぜ。もう、防御は限界だからよ」


「承知」


頷きを交わし、振り替えってみんなの方へ。


「ファニーと、あとホワイト。それから...」


赤髪が杖を構えたまま目線を合わせず言う。


「ルージュだ。判っている、あの時のようには行かないよ」


パリィィ...ン。


張っていた結界が崩壊し、それが合図となったかのように両勢力が合間見える。


「ここは...やっぱりこれが最適かな」


ファニーの周囲に、特に厚く防御を展開する。


回復役職を保持し続ける、基本戦術の一つだ。


「他は、どうだ?」


まず、ジーモの兵士たち。流石、新興国家とはいえ精鋭揃いのようで、あっという間に鎮圧された俺たち学生とは格が違う。


「あっちは大丈夫そうだな...他は」


紅白コンビはどうか?どうやら、ホワイトを守りながら未来を読みつつ、炎の魔法攻撃で迎え撃っているようだ。


「『大竜炎(エルドラゴフレイム)』!!」


赤髪の杖から、強力な炎が射出される。


「割とあっちも大丈夫そうだな」


一応、ホワイトに防御を。彼の周囲に、魔法攻撃を弾く領域を展開する。


「...ありがとう...」


激戦による爆音の中、彼はほんの一瞬目線をこちらに合わせ、確かにそう言った。


「俺も、攻撃を...」


いや。


「...やめておくか」


今、アタッカーは足りてる。防御役の基本は、チームを死なせないことと何より自分が死なないことだ。


「フグッ!!」


「グアッ!!」


反逆魔族リベリオンたちが、次々と倒されていく。だが、こちらが兵士八人学生四人なのに対して、まだ相手の方が数としては遥かに多い。ジーモのおっさんたちも、少しずつ削られてきている。


「ファニー、怪我してねぇか!?」


「大丈夫!!なんとかっ...みんなを回復できてるよ」


戦況は上々。今のところ、順調...


「あっ、危ない!背中!」


「なんだ、ホワイト...うわっ!!」


振り向くと、そこには抜刀して襲い掛かる、俺よりも二回りは大きい体躯の竜魔族。


「やべっ!」


気付かなかった!クソッ、間に合わな...




キィン。




目の前が、質素な模様の入った鉄の剣で一瞬塞がれる。


「気を抜くな、魔族。お前には後で聞かねばならんことが山ほどある」


なるほど。...助かった。


「おいおいクレハのおっちゃん、俺はこの状況の原因じゃねぇよ。けど、ありがとな」


「...全く、世話の焼ける」


はぁー、ビックリした!死ぬかと思った。


しかし、どんな状況でもあのクレハとかいう奴、冷静沈着だな。面白味がないぜ。


だが。


今問題はそこではない。


俺は反逆魔族の後ろからの接近に全く気が付けなかった。それを、カバーされた形になるわけだ。


つまり、戦いのレベルが高過ぎて、ついていけていない。魔力が勿体ないが、背中含めて全体に防御を展開せざるを得ないか。


「...クソッ...」


何の役にも立てていないのではないか?


そんな焦りで、一瞬防御魔法がブレそうになる。


「...おい、魔竜」


「...リングだ」


「そうか。リング。焦るな。焦ると死ぬぞ」


「わかってるよ!!」


ちぃっ!!皆がみんな、お前みたいに冷静じゃないっつの!


「結構まずいね、リング」


「ああ、ファニー。ジリ貧だ...」


防御と回復を担う俺たちをぐるっと囲む、攻撃役の十人が描く円陣が少しずつ小さくなっているのがわかる。まだ一人も倒れてこそいないが、疲労が目に見えはじめている。


「このまま押しきれ!!我らの世界を取り戻すのだ!!」


「応!!!」


相手の頭領らしき魔族が雄叫びをあげ、全員の士気を高めている。


「クソッ。応援が来るような気配も、今のところねぇ。一体、どうすれば」


このままでは、持久戦の末に負ける...


そう、思った。


その時。


「『ヴァルドフレイム』」


そう、誰かが詠唱した。















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