第十八話 過去と、絆と
「魔族が...
『ヴァルドフレイム』。
極一部の魔族のみに伝わる、超強力な炎属性の魔法。
「それを、人間であるアイツが打った...ってのか」
一瞬にして、反逆魔族たちは倒れ伏す。生き残ったものたちは、恐れおののいて撤退を選んだようだ。そして、詠唱の主は、ルージュ。
つまり、人間だった。
「うっ...うぁあああ...あぁっ...」
「ルージュ!!バカ、無理するからッ...」
ホワイトが駆け寄る赤髪の体から、なんと炎が上がっている。
「ファニー。あれ、なんとかならねぇのか!?」
「わからない...これは僕の手には負えない。とにかく、回復魔法をかけて体にかかる負荷を減らさないと」
ファニーが、回復呪文を詠唱する。
だが焼き付いた痛みの方が大きいようで、ルージュは地面でのたうちまわり、苦しんでいる。
「...」
ホワイトが、ゆっくりとルージュに近付く。
「危ない!彼は回復方法不明の呪いに侵されている。近付けば、君も...」
なんと、彼はそのままルージュの手を握る。
「お願い。治って」
「燃え移ってる!君も離れて!!」
周囲の制止も聞かず、ルージュに寄り添う。
するとなんと、二人の体から燃え上がっていた炎が、少しずつ消えていった。
「お前ら...一体」
「...これは。君たちにも聞くことが増えたようだな」
太陽は頂点部から下がり、ほんのわずか、空にオレンジがあらわれていた。
「君たちは全員、この関所を越えることは禁止とする。それまで特別製の宿で休むがいい」
半ば強制的につれてこられたのは、関所の脇にある物置小屋。
「マジ?仮にもちゃんとした身分の俺たちにとっちゃ、小さすぎると思わないかな」
「無駄口を叩いていられるのも今のうちだ。そこの『ヴァルドフレイム』を使用した奴等共々、ジーモに差し出してやる」
「おいおい、結果的に
「言い訳は翌日聞く。おとなしくしていろ」
「うわっ!」
「ぐえっ!」
「くっ!」
「ううっ」
八人がかりで四人は押さえ付けられ、古谷の中に放り投げられ、そして。
「食事はやる。一食だけな」
どうじに投げ入れられた籠に入った四つのパンもろとも、外から鍵を掛けられた。
「待て...お前ら!開けろ!!」
ドンドン。木製の扉を叩く...が。
「ちぃっ。小屋全体に魔法がかけられてやがる!!」
奴等、剣術を用いた近接戦闘だけでなく、こんな搦め手までできるのかよ!
「突破できる手段を探さずとも大丈夫。僕らは無罪なんだから、落ち着いていこう」
「...ああ。そうだな」
ファニーの隣に座って、肩にすがる。
「疲れた。もう魔力もカラッカラ」
「重いよリング...あ」
「なんだ」
「鱗、剥げてる。服につくから」
「おおぅ、マジじゃん。すまん」
「...あ、あの、君たち」
「お?なんだ」
さっきから気を失った赤髪を介抱していたホワイトが、俯き気味に声をかけてくる。挑発も相まって表情は伺えないが、刺の無い優しい声だ。
「その、ありがとう」
「ありがとう?俺たちは何にもしてないぜ。お互い、巻き込まれた。それだけのことだ」
「でも、君たちは僕らを防御魔法で守ってくれたし、その、回復までしてもらって...」
「いいんだ。守るべきものを守り、攻め時を逃さず攻める。君たちが居なかったら勝てなかったかも知れないからね。むしろお礼を言うのはこっちだよ」
「あっ、ありがとう...」
「ほら、それより」
ファニーは投げ込まれた篭からパンを取り出す。
「腹が減ってはなんとやら。でしょ?」
ファニーは目を見開いて、それから、少し涙を浮かべたようだ。
「...本当にありがとう...」
普段は長袖に覆われているホワイトの細い腕が、僅かに見える。
極々小さな窓から太陽光が射し込む暗い小屋のなか、ファニーとホワイトに同調してパンを食べつつ、気になったことを質問する。
「なぁホワイト。その...そいつのことなんだけど」
「『ヴァルドフレイム』のこと」
ホワイトのパンを食べる手が止まる。
「ああ。それはヴァルドボルグ家を中心に一部の魔族にのみ伝わる相伝の魔法。それをなぜ、人間であるそいつが放てる?」
「そ、それは」
「リング、ちょっと。ホワイトさん辛そうだよ」
「すまないファニー。でもこれは、魔族として聞いておかない訳には行かない。教えてくれないか、彼のこと」
「...」
表情は、伺えない。
「...わかった。でも、僕が彼と出会ったのは学園に入ってすぐだ。いまから話すことは、彼から又聞きしたことになる」
ホワイトの喉の動きから、唾を呑み込んだことが伺えた。ルージュの体に触れていた手を離し、前髪を上げる。
「彼は、魔族と友達だった」
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