第十九話 友達

「ルージュの家は元々、超がつくほどのお金持ち。ルーハでも随一の権力者だった彼の家は、魔族との共存を推し進める国の要請に応え、一人の魔族を迎え入れた」


「共存推進の一角として、ね。...俺と同じ理由か」


「そう。その魔族は赤い鱗の竜魔族、オリオン。魔王時代の戦禍をほとんど知らない彼は生まれた頃には親族を失っており、魔族文化から早々に離されて育っていたそうだ。もちろん、先天的な殺意を抑える薬は必要量だけ服用していた。大きなリスクも伴うその共存は危うかったが、誰とでもすぐ打ち解けるルージュの性格もあって彼らはすぐ仲良くなり、三年の月日を経てその絆はより強固なものとなった」


「...なら、何故ルージュさんは魔族を忌み嫌うんですか?その生い立ちであればむしろ、魔族のことを肯定するように思えるのですが」


「...」


ホワイトは大きく息を吸い、項垂れる。


「...その魔族によって彼の両親は殺されたんだ」


「...まさか」


人間が魔族の手によって突然殺されるとしたら、考えられる可能性は。


「そのまさかだよ。薬の服用量が不足していたことが、死体の解剖によって判明した。彼は激戦の末、倒されたんだよ」


「その後はどうなったんだ?」


「彼は両親の事業を突如引き継ぐ形になった。また彼の住んでいた屋敷はオリオンとの戦いの余波によって多くの金品が失われたらしい。一気に資産も両親も失ったルージュは人が変わったように勉強した。事業は潰れる寸前で低空飛行しながらもなんとか持ち直し、ギリギリで学費を捻出した彼は学校に通い始めた」


「不思議だ。わざわざ、俺みたいな魔族がいる学校を選ぶなんて」


「...彼の胸中は、それだけ複雑という事なんだろう。つまり、彼が炎の魔法を得意とし『ヴァルドフレイム』を放てるのは、友達のオリオンに教わったから...と、思われる」


「思われる?それは聞かされてなかったのか?」


「あ、ああ。彼は僕の前でも『ヴァルドフレイム』を使ったことはなかった。今日が始めてだ、たぶん。僕がこのままじゃ敗けて全滅すると言ったからだと思う」


「ふーん。そうなのか...」


へぇ。家族を、魔族にね。


「...家族、か」


「そう言えば、魔族。君も"同じ"と言っていたけど」


「ああ。俺も、ルーハの村に寄越された。...らしい」


「らしい?他人事ですね」


「まぁ、ほんとに小さい頃だったからな。その頃からコイツと付き合いがあったから」


「そうなの?」


「うん。僕も、ほとんど覚えがない頃からリングは一緒にいた。それが当たり前だった」


「...そう、なんだね」


彼は、いつも纏っている長いローブの裾を握りしめる。だが、彼の心情についてこれ以上言及するのは無粋な気がしたので、やめた。


「これからどうする?俺は拷問を受けるのはごめんだぜ」


「そうと決まった訳でもない。ここは大人しくしておいた方が得策だ」


「お前はいつもそうだな...けど、それについては俺も賛成。ここはおとなしくしとこうぜ」


「...だね」


パンを一人ぶん残したまま、静かな時間が過ぎていく。小窓から見える空の色は少しずつ変わって、そして、雷雨の夜になった頃。


「...ホワイト、これはどういう状況だ?」


赤髪。ルージュが起床した。










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