第二十九話話 取引
「僕は...シルバラの孫に当たる。だから、再生能力に特化している」
「なるほど」
触手が、乱雑にホワイト...いや、オリオンの上半身の服を破り捨てる。露になった肌と鱗を見てみると、そこには触手によってつけられた無数の傷跡。
だが、その傷は徐々に塞がり、目の前でなくなった。
「そういうからくりか。再生能力に特化した軍神シルバラ、その血筋を示す赤い鱗。では次の質問だ。何故...かつて両親を殺した人間にまたすり寄った?」
「それは...」
オリオンの瞼が開き、そして落ちる。うろうろと動く瞳からは葛藤が見てとれ、その目線がルージュに動くことはなかった。
「彼がまだ友達で...」
「失せろ!!」
ルージュは俯いて叫ぶ。瞳から、溜まっていた涙が全て落ちる。
「お前なんか友達でもなんでもない...」
「ルージュ、これはっ」
「うるさい!!俺にその顔を二度と見せるな、ホワイト...いや...オリオン!!」
二人の間に渦巻いている激情は、俺の想像も及ばないほどなのだろう。
だが。
身分を偽っていた魔族が四人の中に居たとなれば、最早関所を通る云々どころの話では無くなりそうだ。
「...」
何か。何か無いのか、この状況を打破できるような何かが!!
「...クソッ。結局何も守れねぇ」
このままじゃ...
このままでは何も成し遂げられないまま!!
「どうすれば良いんだ...」
「そこまでだ」
小屋の扉が開き、巨大な影が二つ。
「お前ら、まさか」
「品種改竄を施したドーグダムを使用した拷問とは、随分と度が過ぎていますね。ジーモの皆さん」
...ヴァルドボルグ。それと、隣にいるのはおそらく勇者ロウ。
勝った、これならもう大丈夫だろう。
「おっと。お宅らのとこの生徒さん、身分を偽った殺人竜だったぜ?これじゃあ...」
「ああ。確かに、我々に落ち度があるな。それは認めよう、だが」
勇者ロウの目が冷たく光り、続いて、その口角がニヤリと上がる。
「貴方たちに伝えることが二つある。一つ、あなた方のところのトップが兵を引き連れ我々に武力を行使した」
兵たちが、一斉に顔をひきつらせる。ジーモの勢力が、ヴァルドボルグを?随分と無茶をしたものだが、理由にはある程度納得が行く。ヴァルドボルグはジーモにとって邪魔だろうから。
だが兵士のリアクションを見る限り、予定にはない行動だったみたいだな。
「これが国際社会にバレれば大きな問題となるはずだ」
「へっ、まさかそれとホワイトの情報を交換しようってか?馬鹿馬鹿しい!お前らの経歴に傷がつくことは間違いねぇよ!」
「まだだ、二つあるといっただろう?話は最後まで聞くものだ」
「く...」
ヴァルドボルグと勇者ロウが互いに目線を合わせて頷き、今度はヴァルドボルグの方が口を開く。
「そして二つ。オリオンが人を殺めたのは検死から、本能を抑制する薬の量が不足していたからだ」
「それがどうした?」
「どうしたもこうしたもない。それが、本人がわざと薬の接種を止めたなら、それは本人の罪だ。だが、もし...他者の作為が関わっていたとしたら」
「...ほう?」
クレハを筆頭とした兵士たちと勇者ロウたちが睨み合う。その視線のやり取りは、俺たち若造にはない、年を重ねた者たちのもの。
まるで猛獣同士のケンカに巻き込まれた小動物のような気分だ。
「人間と仲良くやっていたと言う彼が、薬を飲むことを怠るとは思えない。従ってこれは他者の作為による犯行と見るのが現実的だ」
「...何を根拠に」
「根拠?そんなものは今から見つけるんだよ」
「はぁ?貴様よくもそんな腑抜けたことを!」
ちっちっちっ、とわざとらしく口と指先を動かして、ロウが割って入る。
「だから、今から謎解き合戦をやろうと言っているんだ。君らを従える女王は、僕らを襲撃して疲弊してる。国家としてはこれ以上無く危うい状況だろうが、僕らは手出ししない」
「その代わりに、俺たちはオリオンの潔白を証明する。一月後、証拠をもってそちらの宮殿に向かわせてもらおう...いいな」
「いいな、だとぉ?そんなの我々の独断で決められ...」
「いい」
「ギッ、ギンナ様!」
精神に直接干渉する魔法か。
リアクションからして、この場にいる全員、余すこと無く聴こえているな。
「今の話、聞かせてもらった。良いだろう、一月の猶予をやる」
「しっ、しかし!」
「良いのだ。どうせ証拠など見つからぬ。全てはその、赤い魔竜が招いたことなのだから」
「...わかりました。では、彼らを解放します」
拘束されていた全員の触手がほどけ、地面に落とされる。
「...あーあ、いてえんだよこれ。なあおっさんたち」
「クレハだ。口の利き方には気を付けろ、魔竜」
おお、怖い。睨まれてる。けどここは敢えて魔竜呼びに反応したりせず平静を装うか。
「おっと失礼。服代、全員分弁償してくれよな?破れて使い物になんねえよ」
「ケッ。そりゃ、幾らでも払ってやるぜ?だがそれは」
睨み付ける視線がこちらからゆっくりと動き、まだ瞳孔が震えているオリオンに向かう。
「コイツが億が一でも、無実だった場合のみだ」
「...」
目の前で起きていることに対応しきれていない様子のルージュは、まだオリオンの肉体を凝視して青ざめる。
かつての友人の記憶と目の前の竜の事を重ね合わせているんだろう。
「では、生徒たち。ルーハに帰還するぞ。この状況下、出掛けたのは関心ができないな」
「あっ、えーっと、スミマセン。ほら、ファニー」
小声で、ファニーにも謝るよう催促する。
ん?
「...ファニー?」
なんか、固まってる。
「おーい」
目の前で、手を降る。が、視線の焦点はどこか浮わついたまま俺の手先を捉えていない。
「おいってば!」
「あっ?えっ、ファッ?」
大声を耳元で出して、ようやく反応が帰って来た。
「ファッ?じゃねーよ。ま、色々あったしそうなるのも無理はないけど」
「あ?ああ。うん。...え」
「え?えってなに」
ファニーが赤面して、こちらを上から下まで見ている。
「エッチ!!!!!」
「......ん?いや、確かに服破られてっけど別に局部とかは隠れてるんだし別に...」
「エッチ!!!!!!!!」
思いっきりシバかれた。
「なんでぇ!!???」
ええ?そんなか?大体小さい頃に俺の上半身も、どころか下半身も全部見たことあるだろうが!!
「...だって破られたんだから仕方ないだろ?この辺で買い直していけばいーじゃんか。さて、帰ろうぜ。ルーハに」
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