第三十二話 四天王出陣

「さーて。これからどうするかな」


このところ反逆魔族リベリオンにも動きはないし、兵長としての仕事も昔ほど多くはない。


「...あの子に久々に、ぬいぐるみでも買うか?いやー、でももうそんな歳じゃないとか、言われそうだしなぁ...凹む...」


しかし、このところは平和そのものだ。


だが...その平和の皺寄せの波が、一気に訪れようとしている。


今は、そんな時期だ。


気を、引き締めなければ...


キーアの、肌に刺すような寒さの風が頬を通りすぎる。芽吹きかけの新緑がざわめく。


「...ノイズ」


この音...なんだ


「...!」


咄嗟に槍を握り、背後に構える。


「お見事。流石はルーハの炎帝と呼ばれるだけある」


何者だ、コイツ!さっきまでほとんど無音だった。勘で槍を背後に構えなければ、そのまま...


「まさか初撃を防がれるとは思わなかった。さぁ、お相手願おう」


「貴様、何者だ」


槍を弾き、背後を振り替える。


そこには一本の日本刀を携えた、凛とした佇まいの青い竜が一人。


空のような透き通る鱗の肌に紺色の和服を着崩して、戦闘に有利なよう所々で縛っている。


間違いない、こいつは魔族だ。あふれ出る殺意が、"薬"の未接種を物語る。


「名乗るほどの者でもない。とにかく、お前には大人しくしていてもらう」


「理由を言え」


「私に勝てれば、口を割るやも...」


今ヤツが右手に構えている刀。


それと、気配を消して接近する技能。それが今見えている戦法と戦略。


「...しれません」


強敵だ。わざわざ無理をする必要はない、ここは師匠に助けを乞うのがベスト。


「警戒に越したことはない。ヴァ...」


「おっと」


「む...ぐっ」


まただ。また、接近が読めなかった!


視界から外さず、ずっと見ていた筈なのにっ...


口を抑えられた。と同時に、魔力も遮断されて飛ばせない。


「悪いが、助けは呼ばせない。『戦闘空間(バトルフィールド)』」


聞いたことのない、魔法...!


「一対一といこう」


あおむけに倒され、視界に映っていた青空が一瞬にしてエメラルドグリーンに書きかわる。


「遮断された空間を用意した...のか」


縦も横も奥行きも、まるで同じ長さに見える。くりぬかれたサイコロの、中身にでも居るようだ。


だが、広い。一辺が500mはある。


モノは置かれていない、非常に殺風景だ。


「ぐっ...ぶはっ!!」


相手が口から手を離し、距離をとる。


「失礼。仕切り直しといこう」


...コイツ、このまま俺を倒す選択肢だって取れた筈だ。


にも拘らず、わざわざ距離を取り直した。


「お前、名前は」


全く同じ内容の質問を、再び投げ掛ける。


「...清竜」


納刀。から、すぐにでも抜刀できる姿勢を取った。目を閉じて集中している。


本当の、仕切り直しと言うわけか...


「なるほど。その名、覚えておこう」


背中の槍を取り出し、構えを取る。


「ルーハ一の槍使いにして、炎帝...」


先端に、着火。


「参る」








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