第三十四話 危機

「ねぇ」


「ん~?」


「...凄く嫌な予感がな予感がする」


「予感?魔力が何か観測した?」


ロウが作業の手を止める。空中に浮かんでいた家具が、危うく落ちかけた。


「いや。本当にただの予感。だけど...」


「無理ない。今は情勢が悪いし、何が起きても不思議ではないから」


「...!」


魔力。


空中から感じる。


「誰だ!」


ロウも気がついた。咄嗟に、死角を埋めあい魔力の流れを警戒する。


「そう警戒するな。ヴァルドボルグ13世代型」


空中に映し出されたディスプレイ。


誰かが連絡をよこしたんだ...


「何故その名で俺を呼ぶ?貴様、何者だ」


ヴァルドボルグ13世代型。そんな風に俺を呼ぶのはイヴ、ただ一人。


「...まさか、イヴなのか」


「違う。あんな女と一緒にするな、ヴァルドボルグ13世代型」


「だとしたらお前は何者だ。何故、今のタイミングで俺に連絡をよこした!」


「まぁそうカッカするな。お前は私とは初対面だが、私は君をよく知っている。勇者ロウ、君もね」


「どういう、ことだ...」


その魔竜は、黄金の肉体を宿している。


「黄金の鱗...俺が知る限り、そんな竜魔族は居ない」


だとしたら、突然変異種?


いや。


それにしては見た目が異質すぎる。


「とすれば、生殖能力が無い...」


イヴ。


あんな女。


黄金の、竜...


画面の向こうの黄金竜は、その綺麗に整えられた爪先を、自らの長い角に押し付ける。


「...お前は...」


「気付いたようだな」


「どういう、ことだ...?」


視界を補いあって背中を向けていたロウは、まだ解っていない。


「私の角は高く売れたかな?狼人に堕ちた魔竜。ヴァルドボルグ13世代型」


ロウもまた、息を飲む。


「お前も気がついたか」


「ああ。奴の正体は」


「「黄金の竜 ゴルドール」」


パチパチパチ。


画面の向こうから拍手の音。


「お見事。察しが早くて助かるよ」


サーマの、長きにわたる伝説。


暗黒の森の中、誰もその姿を見たことがないとされる伝説の。


「長年、その全容すらはっきりしなかったお前が何故今、この世界に姿を顕した。ゴルドール」


「そう。お前たちは私にその名をつけた。だが、私の真名は違うのだよ、ヴァルドボルグ13世代型。私の真名は黄金竜 エルドラ」


「お前の真名なんざどうだっていい、ゴルドール...いや、エルドラ。お前の目的はなんだ?」


「忙しさからか、話が早いな。...ヴァルドボルグ13世代型。お前はこの世界の地形に、疑問を抱いたことは無いか」


「地形に?...」


質問を質問で返すな。


二の句はそうなるはずだった。


「質問を質問で返すな!お前は...」


「いや、ロウ。いい」


「はぁ?ヴァル、一体どういう」


「...つまりお前が言いたいことはこうか?この大陸を東西に横断する魔力の満ちる森サーマは、役割を持って創られた」


「...なるほど」


ロウも察した。


そう。


サーマの森はいつの時代も冒険者を阻む森。


そして、人類種と魔族の生存域を分断する壁でもあった。


「|イヴ《あいつ》ならやりかねんことだ」


「ご名答。キーアは、選ばれぬ者を選り分けるフィルター。なおかつ、魔族の生存領域を不当に増やさない目的もあった。同族殺しに慣れている魔族がいるのもそう...|あの女《イヴ》はそうやって世界の均衡を維持した。たがどうだ?今のサーマは」


そう。サーマは後の時代になるにつれ人類の手によって少しずつ攻略が成されてきた。


ギルドによる森の開拓。


高低差のある地形を通過する迂回路の存在。


難攻不落と言えど、様々な突破方法が存在していた。実際人類はサーマの北にキーアの街を築き、ある程度の集団生活をも可能にしている。


「..."壁"として機能しているとは言えない」


パチパチパチ。また、わざとらしい拍手。


「そうだ。私...つまり、森の主が居ながらにね」


「なるほど。話は掴めた」


つまり、俺。ヴァルドボルグの血統と同じで、彼もまたイヴによって"サーマのもり"の維持管理を役割として持たせられていた。


「それが何故、」


背景にうっすらと移ったら瓦礫の山。


そこは、忘れもしないあの日の。


「魔王城地下にいる?」



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