第三十五話 里帰り

「そう。ここは最早ゴミ箱同然。私に存在意義を与えた忌々しい女が遺した」


「ならばどうしてそこに居る?その美しい身体でゴミ漁りか?エルドラ」


怯まない。


この程度の煽りは効かないか。


「なぁ、ヴァルドボルグ13...いや。いささか冗長だな。13世代型」


いや、残すの数字の方かよ。


エルドラにとって大切なのは、そっちってことか。


「魔族にとって自然体とは何だ」


...何を言われるかと思えばそんなことかよ。


「聞きあきたね。15年、その言葉を聞かない日は無かったとすら思うほどには。ロウも、ルーハの関係者も、リベリオンも。そして俺も俺自身に何度も問いかけたさ」


「であれば、答えはでたのか」


「そんなものが必要か」


「...」


画面の向こうの動きが止まる。


「1つの問いに1つの答えを出すことが人生だとでも言いたいのか?だとしたら、とんだ愚か者だ、お前は」


「ほう」


「その答えを見出だす途中にも、幸せは転がってるって言ってんだよ。大方、反逆魔族リベリオンもお前が手を引いてるんだろ。エルドラ」


「...では、幸せとは何だ」


「時間」


迷う必要すらない。


「時間だよ。誰かと過ごしたり、ご飯を食べたり。"人"と話したり。ロウと...一緒に居ることも」


背中を預けたロウが、微笑むのがわかる。


顔は見えないけど。


「それが本質を歪めてまですることか?我々魔族は人を殺めるための存在だ」


「言いたいことがよく解らんな。お前は結局の所、何がしたい?言っていただろう、イヴの事をあんな女と。口ではそう言いながら何故、魔族の本質に拘る」


「...そうか。やはりお前とは相容れん、ヴァルドボルグ」


...!!


「貴様...よくも」


写し出される範囲が切り替わる。


そこには...


「ロイ!!」


「お前の"幸せ"を預かった。取り戻したくば、お前の産まれた場所に来い」


全員が魔法で拘束されている。


命までは奪われていない、だが。


「オリオン!!ルージュ、ファニー、リング、それに...先生方まで...」


いつでも命を奪える状況にあるのは確かだ。


「貴様...」


「おっと。主導権はこちらにある。言葉は慎め」


「目的はなんだ!こんな手を使ってまでお前は...」


「三日後」


「は?」


「三日後の朝六時までに答えを出せ。待っているぞ」


「待てっ、まだ話は終わっていない!!」


...


「ヴァル」


...


「ねぇヴァル」


...!!!


「ロウ...」


「行こう」


「けど!」


「僕らに残された選択肢は1つしかない」


「...ああ」




------




キーアの高い崖の頂点部。


その鋭い角度の上に立っているにしてはあまりにも心許なく見える、巨大で豪奢な、白地に金色の意匠があしらわれ、三角錐がデザインに盛り込まれた城。


ギンナはただでさえ高いその城のてっぺんにある部屋で、窓に肘をかけて紅茶を飲む。


「ギンナ様」


「なあに、クレハ」


「そんなところで紅茶を飲んでは危ないです。それに、寒くて御体にも障りますよ」


「落ちたところで私は飛べる。そのくらい、貴方もわかっているでしょう?本当は何の用なの、クレハ」


クレハは口を固く結び、歯軋り。


しかし息を吐き出して、すぐに落ちていた目線を上へ戻し、満月の昇る空を切り出す窓にすがる女王を見据える。


「魔王ヴァルドボルグと勇者ロウに直接武力行使をしたというのは本当ですか」


「そうね」


「...」


「言いたいことがあるなら、言いいなさい」


「...些か勝手が過ぎます」


「この私に口を挟む気?」


「...いいえ、とんでもございません」


「ならいい。さぁ、クレハ」


「何でしょう」


反逆魔族リベリオンに協力するわよ」


「は...はぁ!?き、気でも狂われたのですか!!」


「至って正常よ。ヴァルドボルグとロウを殺すのにこれ以上の好機がある?彼らは今人質を取られているのだから」


「...では」


「ええ。今度こそ彼等からせいしを貰う。全ては私の手中に収まるの」






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