第三十三話 vs四天王

「...『静寂(ノイズキャンセリング)』『屈折操作(リフラクションコントロール)』」


何だ?魔法を詠唱したのか。


僅かに聴こえる、この空間が静かだからだろうか?


ということは。まさかさっきの...


「お見事」


クソッ!


相も変わらず、思考を挟む余地もなく背後に回られた!


「まだまだ行きますよ」


また消えた!!今度は何処から...


「正面!!」


反射で防ぐ!!


「...それほど大振りの槍で私の攻撃をいなすとは。私も、本気を出さねばならないようだ」


奴の刀が、金属の芯と魔法で強化された俺の槍をギリギリと押す。


これを振るい始めて10年、初めて折れかねんと感じた。


「本気を...?それはこちらの台詞だ。もう手段を選ぶ余裕など無さそうだ」


背面への回転ジャンプで距離を取る。また、納刀してからの抜刀の姿勢。


「『清流加速(サイレント・アクセラレート)』」


「『大炎陣(フレイム・サークル)』」


成功だ。奴が姿を消すと同時に、俺の周囲半径十メートルに渡って地面から炎が上がり柱を作る。


接近もままならない...だけではない。


もしこの炎に触れれば、魔力経由で奴の接近は必ずやバレる。


「どう来る。高速移動に魔力を消費すれば、そちらとて長くは持つまい」


いや。この魔法に対抗しうる策があるとすれば。


「...上か」


相変わらず姿も音も微弱で、捉えられない。


だが、炎が揺らいだ、これならば!


「『青炎(ブルーフレイム)』...」


捕れる!


炎槍一突えんそういっとつ!!」


研ぎ澄ました一撃...


「「手応えあり」」


くっ...!


「「切られたかッ...」」


刻まれている。だがそれは、奴の肉体も同じ事。


切断された奴の右肩の和服がはだけ、そこから青い炎が上がる。どうやら効いているようで、左手でそこを抑えている、だが。


「ぐっ...ううっ...」


こちらも致命傷だ。


魔力の籠った装甲を全損させられ、皮膚にまで細かい攻撃が三回も届いている。


一体今の一瞬で何度切られたのだろう?想像したくもない。


出血が始まった。


「『治癒(ヒール)』」


「『治癒(ヒール)』」


互いに同時の治療。判断も早い。


「やるな、炎帝...」


「お前こそ」




------




「はーい、こんにちわ、フレア・ルージュ君!皆のアイドル、雷兎でーす♥️」


「何だ、この空間...俺はさっきまで寝て居たはず...そうか...」


「これは夢か...トでも言いたげネ♥️」


「何...?」


「わかるでしょ?ここは精神干渉とかで作り出された場所じゃない、れっきとした現実。さ、私とやりあいましょ?」


「貴様、何者だ?...その気配、魔族だな」


「ごめんねぇ~。君を連れてこいって、えらーい人からの命令で」


その手には、魔力で鉱石を固めてできた、カラフルに輝く巨大なハンマーが握られている。


「寝起きで悪いけど、君をまた"寝かしつけなきゃ"いけないの」


「はん。わざわざ接近しておいて起こすなんて、嘗めたマネしやがって」


ルージュも杖を出現させ、パジャマを一枚脱ぎ去る。




------




「きゃっ!どういうことぉ?」


「何者かが魔力で構築した空間に、連れ去られたようです」


「はぁ?文字通りどういう事だよ!」


「やるしか、無いのか」


先生二人、生徒二人、容疑者一人の保健室に突如展開された緑の空間。


「さーて。二対五ですかぁ...ちゃんとお金、弾んでもらわないと。ね、シノビちゃん」


「...迂闊に名を言うな...」


「もーう!硬い硬ーい!だよ、シノビちゃん?どうせ全員に勝ってお城にお持ち帰りするんだから~、関係無いよ!」


目の前の魔族二人は、こちらに視線すら合わせない。負ける気が微塵もないんだ。


「ちっ、舐め腐った会話しやがって!先生方、ファニー。頼む。それから...オリオン!お前も戦ってくれないか」


オリオンは俯いたまま、応えない。


「畜生がよ...」


二人と四人はそれぞれ戦闘の構えを取る。


戦いが、始まった。










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