第十四話 復活

「おっ、お前は...確かこの前稽古をつけてくれた」


「シルバラと申します。ヴァルドボルグ様、少々痛みますがどうかご容赦を」


「何す...ぐえっ」


剣を構えた状態から瞬間的に後ろに回っての手刀。


「うわ」


久しぶりに彼が戦う姿を見たが、相変わらず恐ろしい。


ヴァルは倒れて、また横になった。


「ご心配なく、気絶させただけですので。しかし、大変なことになりましたな」


使った刀を納め、シルバラはこちらに振り向く。


「助かりました。ですが貴方はヴァルと戦って死んだ筈では?」


「ええ、私もそう思っていたのですが...伝言魔法でイヴという女性から言伝てが」


シルバラが指をならすと、空中に青色の薄いディスプレイが浮かび上がる。


「やぁ、勇者ロウ。どうやら間に合ったようだね」


これ、間に合わなかったら何て言うつもりだったんだろう。そんなこちらの疑問に構わず画面の中のイヴは続ける。


「シルバラは自身の肉体の復元に長けていた。だから、それを手伝った『ナノマシン』が彼のデータを保存していないかと思い立ってね。そうしたら、案の定!といったところで、亜空間にあった彼のデータを使って取り急ぎ彼を復活させた。事情は大まかに説明しただけですぐ向かわせたから、詳細はそちらでも話してくれ。それじゃ」


言いたいことだけをペラペラと言い、伝言魔法は一方的に終了した。


「ヴァルがこの人を嫌うのもよくわかるなぁ」


そんなぼやきをよそに、シルバラが眉をひそめる。


「で、私はどうしたら良いのですか?とにかくヴァル様の動きを止め、貴方に協力せよとの命令でしたので」


「あ、ああ。それは、これこれこういうわけで...」


気絶させたヴァルを尻目に、仮設の小屋の下で二人話す。こうなってしまった経緯、考えられる原因、そして、イヴが今何をしていて、そして彼女がどういった存在なのか、すべて説明した。


「...って訳なんだ」


「なるほど。中々情報が多く整理が難しいですが、取り敢えず、ヴァル様を説得すればよいのですね?」


「ああ。お前ほどの実力者なら、彼に殺されず済む。どうか、頼まれてくれないか」


「御意」


「...で、聞いたところによれば最初、ヴァルドボルグ様が暴れたのを眠らせて、そのあと起こして説得を試みた。ですよね?」


「ああ。つまり、振り出しに戻ったんだ」


頭を抱えるこちらを見て、シルバラは手を顎に添え、うんうん、と頷く。


「どうにか対処を考えねばなりませんね」


「そう。そうなんだ...」


太陽が傾き、空はオレンジ色に染まる。春の運ぶ暖かさと冬の残した涼しさが半々のその空間で、シルバラとの語らいが始まった。


「よく一目で、ヴァルだってわかりましたね。僕ら、見た目が変わってるのに」


「長年一緒にいればそのくらいわかります。それより、貴方たち」


「なんですか?」


焚き火に薪をくべ、魔法で火力を調整する。


「14世を名乗る不届きものは、倒してくれたようですね」


「ああ。今は、ヴァルの掲げた目標、つまり"魔族を含めた全ての知的生命体の共存"のために色々と頑張ってるよ」


「なるほど。貴方の開発したあの青い薬、量産して配っているのですね」


「え、そこまで知っているんですか?」


「まさか。ちょっとした推理です」


ヴァルはまだ口から泡を吹いて倒れている。それを見たシルバラは不意に年相応の老け顔を見せて、焚き火を見つめながら俯く。


「時代は、変わったのですね」


「ええ。彼は、自分の居場所を手に入れました」


「...私のような老人は、ついていけそうもありませんね。私にとって人生とは、ヴァルドボルグに支えることですから」


「なら、今からでも遅くはないだろう。彼は今も、貴方を失ったことを後悔している筈だから」


「そうですか」


日は徐々に暮れていき、空に、夜と夕との境目があらわれる。指で顎髭をいじりながら何かを思案していたシルバラは、


「えーっと、洗脳でもします?手っ取り早いですよ」


と言った。


「そんなこと恐ろしくてできませんよ...」


「そうですか?でも、現実的な手段をいち早く取るのも大切ではないでしょうか」


「確かにそうだけども」


「んん...お前ら...クソォ、この夢中々覚めないよぉ...」


あ、起きちゃった。アカン。また暴れられる。


「あのー、ヴァルドボルグ様。これには事情がありましてですね」


猫撫で声で、シルバラが近付く。


「うっ...うぅ...」


なんだ?力を溜めているのか?


「うっ...」


「ヤバい、シルバラ、避け...」


「うぇええええええん!!俺様死んじゃうのぉおお!!??もうやだぁああああ!!!」


ギャン泣きし始めちゃった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る