第二十八話 白

「...あはは...あっ...ははははは!!!台無しだわ...全てが!!!腹立たしい。ムカつく、イライラする...ヴァルドボルグ!!」


「さ。サクッと倒すか。それより先に」


ヴァルドボルグを中心に、みどりの光が広がる。


ギンナの従えていた兵士たちが、起き上がる。


「まさか...」


「毒素魔法の解析を全て完了させた。対処法は既に『究極癒(アルテマヒール)』の回復体系に直接取り込んである。もうお前の策は通じない」


「くくっ...そうか。この程度の隙では貴様らを倒せんか。...分が悪いな、逃げ...」


「おっと。逃がさないぜ」


前後左右上下、あらゆる方向に隙無く三人が立ちはだかる。雲の割れ目から月が出て、上空にいる勇者ロウの毛並みの縁が光る。


「殺しゃあしないが、はんごろしくらいにはさせてもらうぜ、お嬢さん」


「ふっ...ふはは」


「何がおかしい」


「貴方たち三人を相手取って、勝ち目があるわけ無いじゃない」


ギンナの手から、刃渡り30センチほどの魔力の刀が出現。


銀色に輝くそれを、迷い無く首に押し付ける。


「待て、貴様...」


「"また"どこかで会いましょう。次こそは、力を頂く」


ほんの一瞬、ギンナの顔が痛みによる苦痛に歪む。しかし切り落とされた首は最後に微笑みを浮かべ、そして...肉体も首も、すべて消え去った。


「...高精度の分身。お前も使えるんじゃねぇかよ」


「ちっ。最後までスッキリしない奴だったぜ。...あぁ、ロウ」


「ヴァル。良かった。僕のことわかる?」


「わかるぜ。あとそれとな」


ぺち。


ヴァルが、ロウのほっぺたを叩く。


「意識が戻ったとき、ほんの一瞬、お前が本気で死んだかと思って」


ヴァルが、泣いている。


「これはその分だ。無茶しやがって、バカ」


よかった、いつものヴァルだ。


僅かに痛む頬を撫でながら、見つめ返す。


「ありがとう。...ただ、今は感動の再開だけじゃ済まなさそうだ」


「どういうことだ?」


「俺は例の生徒たちを守るために分身をキーア入り口に向かわせた。その結果、その中の一人が...」


ロウの真剣な面持ちに、二人も押し黙る。


「身分を偽っていた」


「なっ...」


「なんと!」


ヴァルが、続いて、意味を租借したシルバラが応える。


「...一体誰が...」


「アイシー・ホワイト。その正体は、人間殺しの殺人魔竜の...」


ロウは服の胸ポケットから、一枚の赤い鱗を取り出す。


「オリオン。死んだと思われていたが存命し、高等姿変化を用いて人間界に潜入していた」


「...」


シルバラが押し黙り、奥歯を深く噛む。


「彼らは、今の情勢の影響で関所で足止めされ囚われの身だ。だが」


ロウもまた苦虫を噛み潰したような表情で、拳を握りしめる。


「...彼に殺人の経歴があるだけに、ジーモ側に手出しができない。事は一刻を要する、殺しまではしないだろうが彼らが危ない」


朝日が昇り、戦闘で焼けただれた丘を照らす。


「立場...ね。貴方たちも大変なことになったものね」


「イヴ...おい」


亜空間ゲートが開き、空中に突如緑色の空間が出現。そこから、戦闘服の上に大きめの白衣を羽織ったイヴがあらわれ、そして倒れる。


「...大丈夫か」


「このくらい、何て事無いわよ...。それより貴方たち」


「なんです」


「私と同じ轍を踏む気?」


「どういうことだ」


「かわいい生徒なんでしょう。助けないでどうするの」


「しかし...」


「大義のために命を犠牲にする。お前たちはそんな事をする輩ではない」


イヴの瞳がロウを、続けてヴァルを、しっかりと捉える。それに対してヴァルはぷっ、と噴き出して、ケラケラ笑う。


「なんだ?私何か可笑しいこと言ったか?」


「...アハハっ!いや、お前に言われると腹が立つなと思ったんだ。けど」


ヴァルの目配せと同時に、翼を広げる。


「お前の言う通りだ。あとは任せろ」


「ああ、必ず成し遂げて帰ってこいよ。...あ。まさかあんな痛い目に逢った上で『転移』なんて使うつもりじゃないだろうな」


「見ての通りですよ、飛んでいきます。では」


「じゃあな」


二人の影が朝日を受けて、サーマヘ。


「...新たな戦いの始まりか」


イヴはそう呟き、疲労からその場に倒れた。











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