第九話 旅路

「...と、断ったのが二日前だったよな?」


「うん。そうだね。あの、咲きかけの桜のあるところで」


ルーハの関所近くにある、大きな食堂。様々な種族...というか9割人間でにぎわう外の席。ソラクジラの串焼きを食い溜めしてさあ出発というところだったのに...なのに...


「なのになんで!お前らが居んだよ!!」


「うるさいぞ魔族。公共の場だというのに騒がしい」


「...」


「別に叫んだところでどーってこたねーだろがい!周りはガヤガヤしてるし」


「生憎場所がなくてね。同席願おうか」


ぐるり、と周辺を見渡してみる。あー、ホントですね、席がないですね畜生め!


「ほら、座れよ。にしても、なんでついてきやがった」


「失礼な。君たちが旅に出ると聞いてね、いいアイデアだと思った」


「話が掴めんぞ」


「わからないかなあ?つまり、僕たちも君たちと同様、北を目指して旅することにした。そして君たちとは"偶然"道が一緒になってしまったと言うわけだ」


屁理屈!屁理屈だろそれは!と、そう思った俺の肩を、ファニーが叩いて乾いた笑いを浮かべる。


「こりゃあ一本取られたね、リング」


「うーん、確かにそうだな。じゃなくて!いーのかよ、この先コイツらの顔拝みながら旅すんだぞ?」


「悪いことばっかりじゃないでしょ?火力が足りなくて困ったら、"偶々"助けてもらえる、かもよ」


「そうだけどよ...」


「ホワイト。僕らの料理は来そう?」


「『近未来予測』...いや、まだ...」


そんなことに魔法使うんかい。


「てな訳だ。夜は長い、ゆっくり話そう。宿はどこにとったのかい?」


「教える義理はねぇよ」


「あぁーそれならルーハで安いところがあって...」


「教えてんじゃねぇ!!」


オレンジの照明が照らす中、オレンジと黒のグラデーションだった空の色はすっかり夜のそれになって、星が空全体にはっきりと見える。


「中々時間かかるな」


嫌々会話を進めながら、話を変えるためにファニーに話を振る。


「忙しいだろうしね。仕方ないよ」


ファニーはそんな反応。


「どうだいホワイト。"視え"た?」


赤髪野郎がそう仕掛け、


「来るよ」


白髪の方がそう答えた。


「いいのかよその魔法、結構消費激しいんじゃねえの?」


「...まぁ、街中で戦闘はないだろうしいいよ...ほら、来るよ」


「大変お待たせしましたぁーー!!」


青いエプロンをした体格のがっしりした猪魔族が、料理を一気に運んでくる。


「はいソラクジラの串焼き!はいザモミモザのサラダ!ご注文以上で宜しかったでしょうか!?」


「ああ。ありがとう」


「ごゆっくりーー!!」


魔族はダッシュで屋根のある店舗の方へと向かっていく。


「嵐みたいな奴だな。全く下品だ」


「...君のよくない癖だ、ルージュ。改めろ」


「ふん」


微妙な空気。そりゃあ、気にしちゃ居ないと言えば嘘になるが、そんなことは最早どうだっていい。しかし、壮観だな。


「四人前でこんなにあるのか?サラダも。これ最早、山だろ」


目の前にはピラミッド状に積まれた、デカイ串焼きが実に28本。そして、華やかな黄色の花が中心に盛られたザモミモザのサラダ。金属のボウルに入ったそれは、抱き締めても腕が回りそうにないほどデカイ。


「これが銀貨三枚分。そりゃ混むね...ん?」


「ん?どうした」


「いや、何でもない...」


「おや。これは」


「...」


毛だな。


「そこの狼人のかな?」


いや違う。色が全然。


「さっきの、猪の魔族の人のものだろうね。ま、気にするほどのことでもない」


「全く...これだから」


いや言葉の選び方酷!!なんっ、この赤紙野郎...


「リング」


小声で肩ポン。いや、別に殴りかかったりしねえって!!


「うぅ...」


白髪が水晶玉を浮かべて、苦い表情をしている。


「...」


静寂。


いや、こんな飯不味くなることある?


いや。


気まず!!!


おい!!!


「...あのぉー...」


とりあえずあのーとは言ってみるが、打破できない。てか、赤髪お前、この状況を作ったんだからお前がなんとかせぇよ!


「旨いな」


「うん」


...。


いや焼き加減よくてめっちゃ旨いんだけどな。


そもそもこいつらが来なけりゃこんなことにはなってないんじゃね?


あーもう!


「なんだよぉおおおおおおお!!!!!」














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