第三十八話 突入
「指示通りの時間に来てやったぞ、エルドラ。姿を顕せ」
「時間通りだね。待っていたよ」
火のついていないシャンデリアの残骸がある天井から、優雅にエルドラが降り立つ。
「さあ、始めようか」
シルバラが指を鳴らすと同時に、鎖に囚われた皆が天井から顕れる。
「彼らを解放しろ」
「何度も言わせるな。お前たちに主導権は無い...私はただ君たちと話がしたいだけだ」
「話?ふざけたことを抜かすな」
「ふざけてなどいないさ」
ゆっくりと下降していたエルドラは片足ずつ優雅に着地し、小さく指をふる。
「こうでもしなければヴァルドボルグと話をする機会などもうけることはできなかろう。別に人質を殺す気はもとから無い」
「...」
瓦礫と粉塵が辺りをおおう灰色の世界。かつての魔王城の優雅さは、欠片もない。そこにある"黄金"は変に際立って見える。
「
「...」
「沈黙か。良かろう。君がしゃべりたくないのであれば私がお喋りをさせて貰う」
エルドラは城内をコツコツと歩きながら、破壊された、遥か上の天井から吹き込む吹雪を見つめる。
「あの薬を初めて飲んだとき、君は罪悪感という名の苦痛に耐えかねてそこの狼人と大喧嘩をしたね」
向き合うために必要な時間だった。
もう今更振り返ったりはしない。
「君は優しい心の持ち主かも知れないが、それは何もお前だけではない。その苦痛に耐えかねて多くの魔族が自死を選ぼうとした。人を殺め傷付けるのは悪であると...あの薬によって理解させられたせいで」
ロウは首を横にふり、つとめて冷静に反論する。
「だがそれは一部の者だった筈だ。しかもその一部だって、ヴァルは説得して回った」
エルドラはロウの言葉を意に介さず、ひゅん、と指をふる。
すると、人質の意識が戻って少しずつ、目を開き始める。
「おはよう。話を続けるよ」
「だが"全員"ではなかった。優秀で優しいものほど、その苦悩は深まった。いくらお前の手が広く寛容であろうとも、こぼれ落ちる砂を全て拾うことはできなかった。そして、...その小さくも大きい犠牲の中にオリオンの両親と...リングの両親が居た」
「...」
全て事実だ。言い返しようの無い。
「『洗脳(ブレインコントロール)』」
鎖で手を繋がれていた二人が、地上に落とされる。
オリオンと、リング。二人の魔竜が、その手に剣を構える。
「...利用したな」
「俺達を」
「...!!」
「ヴァル!!!」
駄目だ、落ち着け。
まずは『洗脳』を解く。
「『洗脳解除(リフレッシュ)』」
...!!
ギン!!!!!
「切られ、かけた...」
二人の身体が、強制的に強化されている。
反応に余裕が持てなかった、押す刀が、キリキリと震える。
「返せ...」
「僕達の人生を返せ」
『洗脳解除』が効いていない!
「くっ...致し方ない」
バチン、バチン。
二人の頬を、強めの電流を帯びた手ではたく。
「成る程、気絶させたか」
吹き飛んだ二人は、地面に倒れて動かなくなる。
「何故『洗脳解除』が効かなかった...」
「何故?か。...私はあの森で、その姿を見られたことはない。何故ならば私が、侵入者の認識を歪めていたからだ」
...それが理由か。畜生め。
「精神への強力な干渉。お前もか...エルドラ」
「そう。洗脳は、お前が最も苦手とすることだろう?ヴァルドボルグ13世代型」
「ぐあっ....!!!」
何だ!!何もないところなら、吹き飛ばされた...魔法か!
「私の歴史は、お前たち一系よりは浅い。だが私の存在そのものは永遠不滅。お前が至高の領域に近い力を持っているのだとしても、この世界を見てきた年月は遥かに私のほうが長い」
「何が言いたい!!」
「本気を出せ。そうでなくてはつまらんからな」
竜魔王の息子 未来編 ヴァルドボルグXV世の誕生 芽福 @bloomingmebuku
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