第二十二話 尋問
「おい。起きろ学生ども。朝だ」
「...言われなくとも起きてるさ。寝心地最悪だったからさ」
そらはまだ薄ら暗い。どうやら相当早く起こされたらしい。
「おいルージュ、ホワイト。それからほら、ファニー。起きろ」
ペチペチ、とファニーのほっぺたをしばく。この優等生ちゃんは昔から寝起きが悪いのだ。
「うぅぅ...あと...5分だけでも...」
「そんなこといってる場合か?筋か寝入りだな全く。こうなったら」
例のアレで起こすか。
眉間の部分に、ふっ...と息をかける。
「んっ...ん?ひょわああああ!!!」
「痛っって!!」
飛び起きたファニーの顔が、首の真下辺りに突撃する。
「その起こしかたやめてってまえにも言ったじゃんかよ!!」
「まだ夢見心地か?そんなこと言ってる場合じゃねぇよ。ほら見ろ」
小屋の、狭い一枚扉にはクレハのおっさん。さらにその後ろに、見えるだけでも10人以上は、屈強な兵士たちが並んでいる。
「お、おいおい。学生相手に大げさじゃねぇの?」
「『ヴァルドフレイム』の使い手が居るだろう?その...赤髪だ」
まだ体力が万全とは程遠いルージュはそれでも無言でジーモの兵士たちを睨み、その体をホワイトが支えている。
「君たちが
「意味無いと思うぜ。だって、繋がってないんだから」
「その減らず口がいつまで叩けるかな?魔族」
昨日は夜通し雨だったらしい。
外は未だに曇り、土の地面は所々に薄汚い水溜まりができている。
外に引きずり出され、全員が魔力を拘束された状態でどこかへ連れていかれる。パッと見で10人以上いたジーモの兵士たちは実際には30人以上おり、とんでもない物々しさだ。
明朝故に人は俺たち以外には見られない。周囲は森を切り開いて造られた関所付近の宿場町...
「こんな人だらけの場所のどこで尋問する気だ?」
「取って置きの場所がある。黙ってついてこい」
建物が多くある場所から離され、森の奥へ。
大分歩かされる。思った以上に、人気のないところまで誘導された。
「ここは...」
「こういうことがあったときのための部屋だよ、学生諸君」
森の中、ポツンと佇む、何もない物置小屋。
「また物置かよ、これならさっきと大して変わんないぜ」
すると、隣で拘束されているファニーが呟く。
「...そうか。ここはかつて、魔食の暴花ドーグダムが群生したとされる場所。勇者の道の近くだよ」
「そう。勇者ロウはここにあった狂暴な食人植魔獣ドーグダムを討伐し、先に進んだ言われる。そしてそのドーグダムその後、われわれジーモの研究によって品種改良が為された」
パチン。クレハが指を鳴らし、ニヤリと笑う。
「何...うわっ!!」
「このように」
突如、何もない地面から緑と紫の斑模様の様々な太さのツルが出現。全員の体を拘束した。
「ぐぅっ...」
「では、これより質問を開始する。嘘の回答は命に関わるものと思え」
細いツタが、服の中にまで。
あー、なるほど。ついでに持ち物検査をしちまおうって訳か。
合理的にしても趣味が悪すぎる。
「単刀直入に聞くが、お前たちは
「んなわけないだろ。何度も言うようだが、俺は身分が判ってる学生だぞ?幼い頃からルーハ暮らし。それはコイツも知ってる。リベリオンとの接点はない」
「ほう...嘘は無さそうだな。まあいい、次」
ルージュは目の下に隈ができている。そんな中でも彼は笑って見せ、兵士たちを睨んだ。
「...俺だってそうだよ。ルーハ産まれのルーハ育ち。俺が『ヴァルドフレイム』を知っているのは...かつての...」
ルージュは、言い淀む。
「...かつて、俺の家にいた、例の事業でウチに来た魔族が教えたんだよ...」
「そうか。ルーハの魔族共存推進事業のか。クハハ...滑稽だな!とんだ茶番だ」
「...」
ルージュの顔は歪んでいる。滑稽であることも茶番であることも、本人が一番判っているはずだ。
「そうか。ならば、最後の容疑者だ」
「最後の...?もう俺たちは解放して良いだろう。さっさと北に上がらせろ、この野郎」
「いいや。私は昨日、興味深いものを発見してね。これだよ」
暗くて、よく見えない。クレハの手元にあるのは、薄くて小さくて、赤い...。
「...まさか」
これは驚いた。これは、俺の鱗じゃない。
「そう。赤竜種の鱗。リベリオンにも、そこの魔族も、この鱗に合致する者は居なかった。そこで、ドーグダムによる検査の結果、」
ホワイトの体に直接絡み付いていた細いツタが引き抜かれ、外に。
「やめ...ろっ...」
なんとそこには赤竜の鱗が、びっしりとついていた。
「これはどういうことかね?ホワイト君。そうだ、君に指示しなければならないね」
ホワイトの瞳孔が、きゅっと縮んでいる。まさか...お前が...
「『高等姿変化』を解除しろ。お前の正体は...」
ルージュが、ホワイトを見つめる。その顔には、驚愕と、それに対する確信と、まだそれを信じたくないと言った、そんな。
「お前の正体は魔竜なんだろう?ホワイト!」
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