第三十一話 黄金竜
「全て世は、夢幻の如くなり。...ヴァルドボルグ。お前は本当に面白い」
魔王城地下。
かつて存在した、ヴァルドボルグの研究データの残滓が漂う空間。
そこに一人、全身が黄金の鱗でできた魔竜が立っている。
「きっと今世界で最も強い存在はヴァルドボルグ、お前だ」
空中に浮かんだ、かつてイヴが使っていた観測用ディスプレイ。
そこには、寝息をたてるヴァルドボルグの姿が映る。
「だが...イヴの産み出す最高傑作は、この世に一人だけで良い」
全てのディスプレイが消滅し、黄金の竜はほくそ笑む。
「
「御意に」
「お任せください」
「...」
「エルドラ様の仰せのままに」
何処でもない空間から一瞬にして、姿形の異なる魔族が現れる。
「流れる水は高きところより低きへ流れる。全て押し流してごらんにいれましょう」
青い鱗を持つ竜魔族、
「...ただし、時給は金貨100枚でね」
灰色の毛並みに身を包む狼魔族、
「...」
黒い忍者のような衣装に身を包む、カメレオン魔族の
「一瞬にして葬り去ってあげる。一瞬でね」
恍惚とした表情で語る、兎魔族の
「君たちが動き出すときが来た。一斉にお行き」
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「あ、あのぉ~...」
「ん?」
「これは一体どういうことです?」
文字通り灰がつもった地形の上で、ヴァルドボルグとロウは共同作業をしていた。
土砂が岩が宙を舞い、灰ま、とめて棄てられる。かと思えば木材や家具が空を踊っては、どこかへまた飛んでいく。
「あのぉー、お忙しいです?」
「いや、構わない。ルーハ最強の名将のご会談とあらば」
「もう、そのわざとらしい口調やめろって言いましたよね?我々そんな仲でもないでしょ」
紅い髪をした壮年の兵士が、笑いながら冗談めいた口調で語りかける。
「おやおや、これは失礼」
ヴァルドボルグも同様の口調で、宙にうかせていた諸々を一旦、地面にゆっくりと下ろす。
「さて、今日は何の用かな、ロイ」
背中に槍を背負い、使い込まれた金属の装甲を纏ったロイと呼ばれた男は荷物を下ろす。背負ってきた革袋の中を探り、そこから、何かを大切そうに取り出す。中の形が浮き出て見えるその茶色い麻袋から出てきたのは、なんと大量の金貨。
「おお!...おお?お金?しかしまた、そんな唐突に」
「お返ししなければと思っていたんです。金貨千五百枚」
「いや、確かに今俺ら、お金はそんなに持ってないけど...それで困ってるわけじゃないから」
家を建て、学校を建てたあとのロウとヴァルドボルグは極力、私的なお金を持たないようにしていた。今だって、その辺の木を切ったり身分を隠してクエストをこなすなりして集めたお金で家具を買ったりして家を建て直している。
「いえ、これは...あなた方へお返ししなければならないものなのです」
「お返し...?」
ロウとヴァルが、互いを見つめて同じ方向に首を傾け、
「「ああ!あれか!」」
そして相槌をうつ。
「「ゴルドールの竜の角」」
「ですね!」
「だな!」
同時に言い出して、バラバラに終わる。
ロウは、どうぞー、と譲るジェスチャーをしてその場から退く。
ヴァルドボルグは、ありがとう、と手を合わせて、視線をロイに向け直す。
「そうか。懐かしいな...ってか、あの角一本だけでそんなすんの?」
「そうなんです。けど、家の借金返しきったり、家族が安定して暮らすためにはどうしてもお金が必要で...纏まって返せるようになるまで、長い時間を頂いてしまいました。当時売れた値段よりも少し多くしてあります」
「事情はわかった。けど、いいのか?こんな大金」
「いいんですよ。この日のために、頑張って来たのです。それに娘も自立しましたし、ちょうど良いタイミングですし、これを手放しても生活に何も心配が要らないよう、ここまで強くなったもので」
目の前のロイに、15年前の姿が重なる。
こいつも、強くなったんだな。
「...わかった。これはありがたく受け取る。ああ、家はこんな状態でな。何ももてなせず申し訳ないが」
「いいんですよ。その...もし、噂が本当ならば...ジーモ女王、ギンナと」
「参ったな。そこまでバレていたか」
魔法で作った出来立ての丸椅子を二つ、魔法で浮かせて持ってきて、座るよう促す。
そこへ、椅子に乗ったままプカプカ浮いているロウも参加する。
「いいかな?」
「もちろん。」
「どうぞ」
全ての椅子が地面に固定され、会談が始まる。
「事は一刻を争いますね。ジーモと、
「ああ。それなんだが、かくかくしかじかでな」
ヴァルと俺はアイシー・ホワイト改めオリオンと、その無罪の必要性について述べる。
「...てなわけで、証拠を探しているんだが」
「証拠、ですか。...なかなか厄介な案件を背負いましたね」
「ああ。事件当時の事を知ってそうなやつとか、居ないか?」
「それは、思い当たるところは無いですが...ああ、『記憶解析』とか使わないんですか?」
「まぁ、それも考えてはいるのだが、操作のためとはいえ『記憶解析』を使うのは倫理的にどーなのかと色々とうるさいし...」
ロウは本当に疲れた顔をして顔を左右にふる。まあ仕方ないわな、俺達はもういろんな事挟まれて自由には動けない。
「そもそも第一に、もう当時の証拠を握っている人物へのアクセスが難しい」
「難しい...?しかし、フレア・ルージュはお金持ち。多くの使用人や門番が居たはず。彼らの中に生き残りは居なかったのですか」
「ああ。皆殺害にあっており、ただ一人生き残ったルージュからはもう聞き出せることは全て聞いたさ。だが、彼の無罪を証明するには今一歩至らない」
「そうですか...。では、私はこれで」
「じゃあな」
「バイバイ、お弟子さん」
椅子から立ち上がり、一礼。それから、手を降って丘を降りていくロイの背中は、遥かに立派になっている。
「...あれなら、ルーハも安泰だな」
思わず、呟いてしまう。
「例え、俺が死んだ後でも」
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