第三十話 証拠探し

「あらーん。そんなことがあったのねぇ」


「えぇーまあ。大分大変なことになりましたよ、チェリー先生」


帰還した俺達は一先ず、学校に送られた。すぐに飛び去っていったヴァルドボルグ曰く、家にいるより安全だろうから、と。


「それであの子は捕まってるのね?無罪の証明まで」


勇者ロウが作り出した魔力の込められた檻が、学校の保健室の奥の奥に。そこには、項垂れたまま食事もとらないオリオン...いや、今は人間の姿だから、ホワイトが座っている。


「本当に大変なことになったよね...」


あれから俺達は毎日学校で寝泊まりしている。今、項垂れてそう発言したファニーもだ。


別に気を遣うようなことでもないのにファニーは必ず俺のベッドから1つ離れて寝るのが気掛かりだが、...そんなに俺って嫌われるようなことしたかなぁ?


「ええ。由々しき事態ですよ、本当に」


「あーらブロッサ先生。良いんですか?学校が休みなのに毎日いらして」


目に隈を作った先生がだるそうに欠伸を噛み殺す。背中はやや曲がって、そうとうお疲れのようだ。


「良いのですよ、どうせ本来は出勤予定だったのですから。ほら、食事を取りなさい。保険の先生として、栄養の不足は看過できませんね」


「...要らない」


目に見えて、ホワイトの体重は減っている。元々体格ががっしりしていた訳でもないし、本当に今の彼は枯れ枝のようだ。


「もー。全くこの子は。いい?人も魔族もね、生きる意味を見失ってもいいのよ。"生きる"なんて、取り敢えずでいいじゃない。けど、取り敢えずでも生きてるためにはご飯が必要よ?アイシー・ホワイトくん」


「...オリオンです。もう、ホワイトは居ませんから」


その割りには、変身状態を維持している。余程、オリオンとしての姿に何か、思うところがあるのか。


「あらそう。じゃ、オリオンくん。貴方は意図して、親友の両親を殺したの?」


「事実はどうあれ、僕が殺したのにかわりはありません」


「あら。...確か"検死"の結果は薬の接種不足よね。でも」


チェリー先生の尻尾がゆらゆらと揺れて、赤い鱗を一枚、地面に落とす。


「それって誰かが意図的に仕込んだんじゃ無いのかしら?薬を、似たような偽物とすり替える、とかで貴方の魔族としての本能を引き出したとも思える」


確かにそれは一理ある。


俺達をここまで護送して別れる際に、ヴァルドボルグも似たようなことを言っていた。


ルーハの魔族交流事業の妨害とジーモ建国をスムーズに推し進める二つの目的で、彼は嵌められた可能性がある。


その為の証拠を一ヶ月の間に抑える、と。


「...でも、事件は大分過去のものだろ?今から証拠なんてそうそう見付かるもんでも無いだろ」


「いや。あの二人は僕らの想像を越える力を持つ魔法使いだ。勇者ロウと魔王ヴァルドボルグなら、あるいは」


ああ。確かにそれも一理あるな。


「...しかし、最近反逆魔族リベリオンは動いてねぇのな」


「ああ。ギンナが退けられた事や、学校に大挙して押し寄せた軍勢が一瞬にして全滅させられたことも原因だろう。ヴァルドボルグと、ロウ。この戦力を越えることが出来なければ、どんな勢力でも勝ち目はない」


手元の資料をめくりながら、ブロッサ先生はコーヒーを飲み始める。


「...。反逆魔族リベリオンもジーモも、この状況をひっくり返す為の策を練りに練っているところなんだろう」


魔法で掌から、大量の角砂糖。


...じゃあ、喋り出す前の妙な間は、苦いの苦手だったからってことか?


見栄っ張りかよ。


「そういう意味でも彼の無罪証明は今後の大陸の情勢のキーポイント。我々もできる限りは」


「協力するわよ?生徒のみんな」


「もう、良いとこなのに割り入らないでくださいよ、チェリー先生」


「あら。私たちの気持ちは1つ。そうよね」


「それは否定しないがな」


しっとりと曇った空に見守られる学校の、はるか遠く。


ウィント地方、元魔王城にて


「...ヴァルドボルグか」


圧倒的な力を持つ者が、動き出そうとしていた。



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