第三話 勇気
「もう治ったのか?」
教室にはまだ人が多く、ざわめきが空間を包んでいる。人の出入りに配慮して、俺たちは廊下に出た。
「うん。それより、さっきの試合のことなんだけど」
「おう。ああー、いいんだ。それはもう気にしなくていい。なんか訳があったんだろ」
「う、うん。まあね。それよりさ、相談があるんだけど」
「なんだ?」
「今から長期休暇だよね。」
「ああー、どんくらいなんだっけ?」
「先輩たちに聞いたところによると、どうやら二ヶ月あるらしい。そこで提案なんだけど」
なんか、そわそわしてるな。試合の時といい今といい、なんだか様子がおかしい。
「二人で出掛けない?」
「ん?あー、いいなそれ。確かにペアになってからそういうことしてないし。うん、いいよ」
「随分あっさりだね...」
「逆に否定する要素無いだろ?だって、二月もあるんだし」
「課題とかあるでしょ」
「あ」
そりゃー、そうか。
「...どこまでいくんだ?せめて3日とかそんなもんだろ。課題はその間に...」
「3日、じゃぁー済まないかな」
「何処まで行くつもりなんだ」
「えっ...と。それは...」
「おや、お二人さん。今から昼食かな」
げっ。良いところなのに。この、嫌味ったらしい声は。
「...ブロッサ先生」
「覚えていただけていますね。関心関心」
ゆったりと拍手をするその態度。相手は自分より身長が低いのに、向こうから見下げられている感じがする。
「あと少しで春休みですからねぇ。気を抜かないよう、試験も頑張るといい」
んなこたぁ、言われなくてもわかっとるわい!という言葉を、取り敢えず胸にしまう。
「ありがとうございます。先生も、良い休みになるといいですね」
「おや。ありがとうございます」
あれ?なんか、親しくなってる?そう言えばさっきまで、医務室にはこいつとファニーの二人だけだったか。
「おい、ファニー。さっきの続き。学食で話そうぜ。じゃあな、ブロッサ先生」
「そうですね。では私はこれで」
手をゆらゆらと降りながら、先生は階段を降りる。なんとなく、俺たちは反対側の別の階段へ向かう。
「こっちの階段、学食からはちょっと遠いけど」
「いーんだよ。ほら、はやく行こうぜ」
「ああ、うん」
昼時で、学校はどこも賑わっている。人間、狼人、魔族同士の友人や、あるいは恋人なんかが歩いているが、俺たちのように別種族でつるんでる奴はそう多くない。それも、俺たちが変に目立ってる要因なのかもしれない。
「...で、さっきの話の続きなんだけど、どこに行くんだ」
四階の踊場あたりに降りてきたとき、中々ファニーが話し出さないのでこちらから聞いてみる。
「あぁ、うん。その、まだね。えーっとその、うん。キーアの辺りまで行こうかなって思ってて」
やたらと、しどろもどろだな。なんだ?いつもはこんなんじゃない、むしろハキハキ喋るほうなんだけどな。
「へぇ。キーアね。うん」
うん。キーア...
「...って、キーアってあのキーア?森の先にある?」
「う、うん」
「2ヶ月以内に行けるかどうかギリギリじゃね?っていうか、なんでまた」
「あー、それはね!その、ほら。勇者の足跡ってあるでしょ!あそこを一度でいいから通ってみたいんだ、ほら、僕は勇者ロウに憧れてるからさ」
なんか急に喋りが流暢になったな。なんでだ?それはともかく、納得の行く理由ではある。ヴァルドボルグにさして興味ない俺と違って、コイツは勇者ロウ大好きだからな 。今のうちにそういうことをしておきたくなったんだろう。
「ふーん。...悪くない話だけど。それって、サーマの森通るの?今でこそ、ギルドがこぞって開拓してて安全性は高まったけど、やっぱり危ないって話だぜ」
「そこなんだよね。それも含めて、君と相談をしておきたいと思ったわけ」
「なるほど」
そうこうして居るうちに、食堂のある一階にやって来た。中央の中庭にある噴水周辺には、慎ましい大きさの創立者三人の銅像とベンチがあり、そこに多くの生徒が集まる。
「...外の席、もう一杯だな」
「天気いいもんねー」
「だな」
「なに食べる?」
「串焼きかハンバーグ...」
「どっちも食べない?分けよう」
「おーいいねー」
そんな気の抜けた会話をしながら中庭の周辺の廊下を迂回し、食堂へ。
「...げっ。今日は厄日かぁ?俺」
「よーう、ネチネチ。元気にネチネチしてるぅ?」
「あいつら...」
授業で戦ったチームが、列の一番後ろに並んでいた。
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