第十一話 支援

「かーっ!アイツら何なんだよ!」


「落ち着きなって、リング。お酒飲んでるときの父さんみたいだ」


「これが落ち着いてられるかよ!呑まなきゃやってらんねー!!」


「ま、飲んでるのはジュースだけども。それにしたってだよ、もう十時だし、隣の部屋の人にだって迷惑じゃない」


「そりゃあそうだけどよ...うん。そうだな」


今の一言で、自分の中にあった熱が一気に冷めた気がした。それも、健全な下がり方をしたわけではなく、


「なんか、もやっとする...クソォ」


そんな下がり具合。


「もう、そんなにテンション落とさないで。ここは勇者ロウが宿泊したとされる、伝説的な宿なんだから」


「本当なのか?なんか、設備...結構古く見えると言うか...」


「そこが良いんでしょ!きっと、何か特別な理由があってここを選んだんだよ」


あぁそうか、コイツガチ勢だったわ。


「流石に、ロウが泊まったとされる部屋は取れなかったけどね。高くて」


「いくらするんだ?」


「一人一泊で金貨十枚」


「たっっ......か!それだけでか?この部屋二人で金貨一枚だろ?」


「ちょっと迷ったけど...」


「迷う要素ある?」


「だよねぇ」


「うんうん」


「奮発して泊まればよかった」


「そっちぃ!!??」


「どうもー!ルームサービスです」


唐突に、宿の扉がギイィと軋む音を立てて開く。


「あっ、え?何か頼みましたっけ」


「いいえ、タダですよ。文字通りのサービスですので」


宿の主人だ。カウンターにも居た。70代ほどの男性に見える。年の割には体がしゃっきりしていて、なんだか元気そうだ。宿の経営が上手くいっているからか。


「では...ごゆっくり」


ファニーに対してはニコニコしていたが、俺はというと一瞥されてすぐ目線を反らされた。


「うわお。ひでー差別」


「確かに」


宿の主人は、なんだかファニーに特段優しかった気がする。俺は魔族だから悪い意味で冷遇には慣れているが、それにしたってなんか対応に差が無いかなぁ!?


「勇者ロウにゆかりのある場所だし、狼人にはサービスが手厚いとか?」


持ち込まれたのは、長方形の平皿に盛られたサンドイッチ。肉と卵が挟まれたものと、あとは、ハムとレタスのサンドイッチがそれぞれ3枚。


パンには耳がついていて、三角のお山型だ。


「運が良かったな。遠慮なく食べるとするか、これ」


「うん」


もしゃもしゃと、サンドイッチを食べる。


「...旨いじゃん」


「あっ、これ肉好きな味の...やつ」


「おう」


わからない。


そう思うときがある。


こういう時間は、昔は当たり前ではなかったこととか。狼人も魔族も人間も、隔絶されていたのが当たり前とか。


なんなら、今でもそれが当たり前に寄ってる、みたいな。


「ん?僕の顔何かついてる?」


「いや、何でもない。それより、具体的なゴールは決まったのか?」


「あっ、ああ!!うん。決まったよ。ここ」


ファニーは大陸の地図を広げ、ルーハより遥か北のキーアの内陸部を指差す。


「ここ。ラヴァルの断崖」


「おおー。観光地だしな、ここ。良いんじゃねぇの」


「あっ、あっ!そう!?うん、良かった」


「は?何が?」


別にそんなあわてふためいて言うようなことか?溜めた割には以外と無難...というか普通だなと思った。


「いやー、なんかその!いや!何でもない」


急に落ち着いた。どういうことなんだこれ。


「明日は郊外に出て、次は山小屋で一泊だね。さ、寝よう」


「おぉう...」


なんだぁこいつ。変なやつ。




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